幻想 -慈み合い−
□腕時計
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慌ててというように、グラフを閉じたちえさんが、机にそれをおきながら、取り繕ったように、問いかけてくる。
「・・・。上手く行ってないというか。もう、3週間あってません。」
「え?ええっ?」
「あっちは、ちかさんのさよなら公演真っ最中ですし、私は、ほら、いまずっとこっちですから。」
「・・・・。連絡はしてるんやろ?」
「電話もメールも、ひろみさんからきたことはありません。」
「ええっと・・・。喧嘩でもしたん?」
口にするにしたがって、だんだん本当に自分たちが付き合っているのか、付き合っていたのかさえわからなくなってきて、思わずうつむいてしまう。
考えれば、いつでもどんなときも、ひろみさんから、誘ってもらったことは、なかった。
いつも、私から、連絡して、私からメールして、私から約束を取り付けて・・・。
そう考えたら。
私たちって、本当に付き合ってたんだろうか。
そういうことはもちろんしていたけれど。
でも、それだって、ひろみさんから、誘われたことは・・・ない。
考えていくだけで、だんだんと、疑心暗鬼になってしまって。
思わず、頭をぐしゃぐしゃとかきまわしてしまう。
「・・・・りか?喧嘩したんか?」
心配そうに私を覗き込んでくれるチエさんのその視線を受け止めながらも、自分の考えに縛り付けられて。
出口のない迷宮に迷い込んでしまう。
「りか?」
「喧嘩・・・・したことないんです。私たち。」
「え?だって、結構長いこと付き合ってるやろ。」
「ええ。でも、ないんです。」
そう、喧嘩さえしたことがない。
絶対に、ひろみさんは、私に感情をぶつけてこない。
私が、わがままを言っても。
急にドタキャンしても。
笑って、「しかたないな〜。」って言うだけで。
それだけで許してくれる。
それって。
私に心を許してないって事なのかな。
私に心を開いてくれていないって事なのかな。
私、愛されて・・・・・ないのかな。
End ⇒ あとがき
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