夢想 −偲び合い−
□秘恋五題 〜密やかな恋心のお題〜
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◆ 愛しいからこそ、音に出来ない
隣に眠るあさこをそっと見下ろしながら、明日に思いを馳せてしまう。
明日、いや、これからにだろうか。
今まで当たり前のように私の隣にいたあさこが、もうすこししたら、それが当たり前ではなくなってしまう。
出会いがあれば、別れがある。
それはいままでにも幾度となく経験したことで。
でもこれほど深く思いあう相手にであったことは。
なかったから。
別れが訪れたときは。
きっといままでにないくらい痛みを伴うだろうと安易に想像はついた。
でも、その瞬間を少しでも先延ばしにしようと思ってしまうのが、浅はかな、愚かな考えであることは重々承知していたけれど。
でも、少しでも先延ばしにしたいと思うのは、人間の心理だと、自分に言い聞かせて、今日まできてしまった。
いつかは、言わなくてはいけないこと。
『卒業、おめでとう。そして・・・。さようなら。』
笑って言うことができるだろうか。
世間から、クールビューティだとか、色々言われていても、所詮、愚かな人間だから。
それは、私自身が一番よく知っていることだから。
笑って、笑顔で最後まで見送る自信は。
正直なかった。
いままでも、同期が退団するときでさえ、涙ながらに『おめでとう』という言葉をかけるのが精一杯で。
そばにいる、あさこがいつもフォローしてくれていた。
『よーちゃんは、こう見えて、感情を吐露しまくるんだよね?』
冷たい表情を浮かべながら、でも、ぼろぼろと涙を流し。
無表情を装いながら、なのに嗚咽をこらえきれていない。
そんな自分をコントロールすることができず、おろおろしてしまっている私を、優しく抱きしめながらそっと隣で微笑んで、私の言いたいことを変わりに言ってくれるあさこ。
もちろん、わかってるよ。ようこは、いつまでたっても、変わらないね。
優しく微笑んでくれた同期たち。
そんな私のことをわかってくれていた同期たちが次々と旅立っていき、とうとう、あさこの番が来てしまった。
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