幻想 -慈み合い−
□トラファルガー@
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ブロンドの髪を風にたなびかせながら、一点を見つめるその後姿をそっと見つめる。
何を考えているのかは、わかっていた。
唯一つ、残してきた愛しい人のことを考えているのだろう。
しかし、船に乗れば、彼は、ただ一人のものではなくて、艦全員のものになる。
彼の肩にはわれわれ全員の命が掛かって来る。
その重圧に押しつぶされるような人ではないこともわかっていた。
でも、その重圧を少しでも担えるように今まで努力してきたし、結果も残してきた。
「トマス。どうした?」
ぼーっとしていたらしい、私にいつのまにか、そばに近づいてきていた提督が声をかけてきていた。
「いえ、なにも。提督こそどうされたのですか。」
普段物思いに耽ることがあっても、艦内ではありえなかったのに。
そう思っていたのが顔にでていたのであろうか。
「トマス。私は、今まで何のために戦ってきたのだろうか。」
「・・・ホレイショ。」
「私は間違っていなかっただろうか。」
「・・・・。」
「私は、義のために、たくさんの戦いに参加して、たくさんの人を殺めてきた。」
「私も共に戦ってきました。」
「ああ、そうだな。」
「ホレイショ、間違いなどありません。あなたの行って来たことこそが正義です。」
「・・・ありがとう。トマスがいてくれてよかったよ。」
いつも大きな彼が消えてしまいそうに見えて思わず抱きしめてしまう。
「ホレイショ」
「トマス。本当にありがとう。」
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