幻想 -慈み合い−
□クリスマス
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店に入る前降っていた雨は、店を出るときには雪に変わっていた。
「雪だ…。道理で寒いと思った。」
呟く独り言にもちろん答えてくれる人はいない。
虚しさと、寂しさから思わず溜め息をもらしてしまう。
「嘘つき…。いつもいつまでも一緒ですって言ったくせに…。」
わかってた。
嘘をつく気で言った訳じゃないことは。
もちろんその言葉が実践されるなんて、考えてはいなかったけれど、でも幸せに包まれた記憶がある。
大きな荷物を肩にかけ直して、ふと空を見上げた。
うん。まだ大丈夫。
まだ、私笑えてる。
あの子の幸せを願えてる。
あと一週間もしない内に初日を迎えるあの子は、今稽古の大詰めに入ってて、日付が変わるまでに帰ってこないことは、安易に予測できた。
今年が初めて別々に過ごすクリスマスになりそうだ。
きっと一人で過ごすクリスマスは。
とてつもなく寂しさを伴うだろうけれど。
でも、だからといって、他の誰かと時を紛らわしたいとは思わない。
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