〇束の間の夢。


□Happy Halloween 2009
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「…ん…くぁぁ…」

大きな欠伸をひとつして、目をこする。
今日もとっくにデカイ月が空に浮かんでいた。

「やべ…寝過ごしたかな…」

とりあえず俺はベッドから這い上がり、顔を洗うことにした。

今日は珍しく予定があった。
それはあの腐れ縁の3人との会議。
議題はもちろん、数日後に迫ったハロウィーンについて。
今年は一体何をしでかそうというのやら。

まぁそれが俺の毎年の楽しみでもあるんだけど。

時間にはまだ余裕があった。
俺は何か食べてから行こうと思い、チョコレートに手を伸ばしたそのときだった。

「「ゆっきーっ!!!!」」

「うわっ?!」

勢いよくドアが開いて、見覚えのある2人が俺の家に転がり込んできた。

「ど…どしたの…ハイドくん…テツくん…時間はまだ…」

てか…俺の家、壊さないでね?

「や!ちゃうねん!これにはふかーい理由が…!」

…へぇ?
去年もはしゃぎすぎて俺んちの天井抜いたの誰だっけ?

「け…ケンちゃんが…!」

…ん?
ケンちゃん?

「ケンちゃんが…どうかしたの?」

「やらん言うとるん!」

「やらないって、何を…」

「「ハロウィーンや!!」」

「…え?」

あの、三度の煙草よりハロウィーンだって言ってた、ケンちゃんが?

「…てか二人とも…箒、折れてるよ?」

「「え?」」

乗ったまま俺の家に飛び込んできたのだろう、二人の足下にはすでにバラバラになった箒が散らばっていた。

「あかん!帰り徒歩やん?!だっさ!」

「…この箒高かったのに…お気に入りやったのに…」

…はいはい、俺の貸せばいいんでしょ。



*****


「…で?さっきの話…」

「あ!この箒ええなぁ!でもこっちも…」

「ちょ、これ最新モデルやん!えーなぁ!」

「ねぇゆっきー、これドコの?俺も…」

「…って、いつまで箒えらんでんだよっ?!」

「えー?だって、ゆっきーカッコええのいっぱい持ってるからー」

…どーせ、一本欲しいって言うのはすでに分かってますから。

「…それで、ケンちゃんに何かあったの?」

「「そう!その事なんやけど!」」

さっきからハモりがすごいなこの二人。

「あんなにハロウィーン好きだったのに?」

外せない予定が出来たとか?

「ケンちゃんは俺らを裏切ったんやー!」

…そんな大袈裟な。

「いや、ハイドの言ってることもあながち嘘やない」

ん?
どういうこと?

「…ケンちゃん、このままやと死んでまうかもしれん」

え?
なにそれ?!
もしかして、不治の病に掛かったとか…?!

「ちょ、それ魔法でどうにか…」

「無理やな。俺らではもうどうすることも…」

そう言うテツくんの隣で、ハイドくんは緊張感のない不機嫌そうな顔をしている。

「ケンちゃん、あんなんやから長生き出来ひんねん!俺らの気も知らんと…」

「だからって、諦めるの?!」

ハイドくんとテツくんは一瞬顔を見合わせた後、また俺を見た。

「…ケンちゃん、好きな人が出来たん」

…は?

なに?
くだらない冗談?

「それも人間にや!」

「…え?!」

人間?!

「う…嘘でしょ…」

「俺らだって信じとうないわ。でもこれはホンマのことなん、俺らがこの目で確かめた」

俺ら魔法使いは、見た目は似ていれど人間とは相容れない生命体。
出会うことも禁じられているのに、まして恋に落ちるなんて。

寿命が人間の何百倍もあるこの世界には、あるひとつの言い伝えがある。
魔法使いが人間に恋をし、それを成就させたとき、本来の魔法使いの寿命をなくし、人間と同じ寿命になると。

これはケンちゃんだって知っているはずだ。

「やっかいなことになったね…」

人の感情を操る魔法は禁則だ。
バレたら俺らが死ぬし、そのリバウンドも半端ではない。

「昔っからケンちゃんは色恋沙汰が多かったしなぁ…」

「俺らの…ハロウィーン…」

ハイドくん、そうじゃないでしょ。

「そもそも、なんで人間と会う機会があったのさ?」

するとハイドくんとテツくんは分かりやすく肩をビクつかせ、目線を宙に泳がせた。

「…言いなさい。」

「い、言いますっ!だから魔獣よばないでっ!(泣)」

ちなみに地獄魔獣召喚は俺の一番得意な魔法。

「ええと、今年のハロウィーンはなんか今までと違うことしたいなって思って、その…ヒントを探しに…」

「そこで移動魔法使たんはテッちゃんやったよな!」

「ハイドっ!いらんこと言わんでええの!そもそも移動先決めたんはお前やったやろ?!」

「あっ、テッちゃんそれ言わんでも?!」

「それで人間界に行ったってこと?」

「「うっ…(鋭い…)」」

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