〇束の間の夢。


□Happy Valentine 2009
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「…逆チョコ?」

「そ!
 てっちゃん知らんの?」


ハイドはその意外に太い指を、俺に向かって差した。
同時に手首についているブレスが鳴る。

「…俺、テレビとかあんま見いひんから」

「そうなん?
 ま、せやから今年からは俺ら男から送ってもええんやて」

「ふーん」

…俺はそんなお菓子会社の陰謀には乗らないが。

「…ハイドはあげるん?女の子に」

「え?
 あー…そんな訳ないやんか!」

今の間はなんだ?

「まぁ、バレンタインは、ハイドは大変やもんな」

俺は今までのハイドの苦労を知っている。


…と言っても、去年の噂しか知らんけど。
ハイドは俺の一つ先輩で、うちの高校じゃ誰もが知ってる伝説の持ち主だ。

「今年は何個なんやろなー」

「・・・」

「ハイド?聞いとる…」

「逆が、逆じゃなくなれば、ええのに」

「え?」

「そいえば今日、ゆっきー見た?」

「や、見てへんなー…
 休みか?」

「そういう俺らもサボり中やけど」

俺は空を仰いだ。
もうすぐ昼休みになるだろう。
誰もいない屋上の死角。

ここは、俺ら4人の特等席。

しかし今は2人しかいない。

「ケンちゃんは?」


一応、聞いてみる。

「たぶん数学やろ」

やっぱりな。

「あんなんのどこがええんやろ。
 絶対将来なんの役にも立たれへんて」

「…ハイド、俺それ耳にタコや」

今日は日差しが暖かい。
どこかのクラスが体育をしているらしい声が聞こえる。

バレンタイン、か。

俺には関係あらへんな。


4時間目終了のチャイムが鳴ってから、しばらくたった。

「ハイドーっ、テツ、おる?!」


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