短編
□小さな破壊神。
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楠が障子紙にそって指を突き立てると、案の定、障子は何時もよりピンと張って今にも裂けてしまいそうになる。
「やめなよ。」
破かれたら困るのでそのまま指で貫こうとした楠を制止する。
すると楠は此方を向いてムッとした表情を見せてまた障子に爪を立てた。やめる気配はないのでもう一声掛けておく。
「ねぇ」
「破かねぇよ」
そうかと少し安心はしたが、まだ指は障子から離れていない。
しばらくするとその障子の一囲いを縁取るようにクルクルとなぞり始めた。
「山野…。」
「ん?」
今まで手にしていた書物を近くに放り投げて楠のほうを監察する。
指の動作はさっきと変わらぬままで、それを僕が見つめている。傍から見れば変な光景。
「なーんか壊したくなるよね。一度は」
否定はしなかった。
子供は物心つくちょっと前はなんども蹴り破ってるみたいだし、つい最近沖田先生のうっかり(絶対わざとなんだろうけど)破いて副長に怒られていたのを見かけた。
「たとえば、この小さな枠の中の紙がさ。一世界だとしたら、山野は破る?」
「はァ?」
言っていることが理解できなかった。
一瞬、小難しいことを一気にまくし立てる尾形さんを思い出した。彼は時々変なことを言い出すから理解に苦しむ。
それが楠にも感染ったらしい。
障子に突き立てる指を二本に増やして小刻みに突付きだした。
ふとした拍子に破れてしまいそうで冷や冷やする。
「こう、簡単に破りって壊して、また張り直して再生する世界だったろどうだろう」
「規模大きくない?」
頭を回転させてやっと出た答えがこれだ。
「そうか?もしそんな世界だったら凄い素敵じゃんか」
楠からそんな言葉が出てくるなんて思いもしなかった。
そう思っているうちに楠はまた障子に爪を立てた。さっきよりも、強く。
「世間はそんな簡単じゃないよ。第一、そんなうまい話しあるはずがない」
「簡単じゃないだろうけど、きっとある」
ああ言えばこう言う。
今日は如何したんだろうか?
時々感じる、いつもの楠じゃない気がする。でもその反面、如何しようもなくなった子供が我がままを言っているようにも聞こえた。
「創世があって、破壊があって、再生が無いなんておかしくね?きっとどこかに有るんだよ。誰かが隠してて、皆気がつかないだけ」
「もし、それを見つけたら楠はどうしたいの?」
何気なく見た障子には小さな穴が空いていた。
小さな破壊神。
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楠は創聖のアクエリオン知ってそう。