短編
□恋い慕う
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そういえば、新さんに女の人が出来たらしい。
俺も最近聞いたばかりで実際にあった左之の話しではおしとやかで気の利く良い子だったみたいだ。正直、その話しをされてもだからどうしたんだ?しか言えない俺なのだが、
何故こんな事を思い出したかというと。
その噂の二人が屯所の前でなにか話しをしているのだ。
丁度、俺は外に出ようと向かっていた訳で、偶然この場に鉢合わせてしまった。
このまま通りすぎるなんてそんな勇気持ち合わせてはいないし、見る限り二人とも神妙な面持ちで、女の方は今にも泣きそうだ。
ここは大人しく屯所に戻ろうか、という考えが一番最初に思い浮かんだのだが、その二人の表情を見てしまった俺の中の好奇心が高まった。
我ながら嫌な奴だ。と思いながらもすっと物陰に隠れる。
今だ話し声さえ聞こえないが、まだ二人の間に流れる重苦しい空気は変わらない。
暫く経つと、女がなにか訴えるように新さんの着物にしがみ付く、だけど新さんの表情は無表情で…そのまま泣き崩れるように女は座り込んでしまった。
すると、新さんの口が何か言葉を紡いで、――刀に手を伸ばした。
俺は驚いてうっかり飛び出しそうになったが、慌てて体を引っ込める。
女はゆっくりと立ち上がり、新さんを一度だけ見て突き飛ばすように去って行った。
「…新さん」
耐え切れなくなった俺は物陰から出てきて新さんの方へ近づいていく。新さんは驚きもしないで「やっぱお前か」と消え入りそうな声で返事をした。
俺が隣に立ったのと同時に新さんは崩れるようにしゃがみ込んでしまう。
「あのさぁ、昨日の見廻りで捕まえようとした浪人うっかり殺しちゃったろ?僕。」
「うん」
そういえばそんなことあったなと、ぼんやりとした形でしかないが思い出す。うっかりとはいえ浪人を斬り殺すなんて新撰組にとっては何時ものことで、いちいち覚えてはいられなかった。
「笑っちまうぜ?その斬り殺した奴がよ…あいつの兄貴だったって訳だ。」
「…。」
「あァー、これはもう駄目だな。って思った。」
つまり、あの女の人も敵。
ここにいる立場上、絶対に許されない関係が出来上がってしまったのだ。黙っているという選択肢はあっても永倉新八という名前ではそれさえも上手くはいかないだろう。
それを選択したとしても。すぐ、土方先生か沖田さんの耳に入って始末されてしまうのがもう見えている。
だから、失う前に捨ててしまえと新さんは思ったのだ。
「俺はなにも見てないし、何も覚えていないよ?」
だから追いかけてしまえばいい。
「……ああ。」
そう俺が催促をしたのに、新さんはそこから一歩も動く気配はない。
「でも、もう」
恋い慕う
僕にとってもう過去の出来事でしかない。
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今は今!!昔は昔!!みたいに割り切るのが早い新八を書いてみたかったんです。そして恋愛もの(しかも悲恋)も書いてみたかったんです。
話しが分かりにくかったらすみません。
まぁ、新さんはいい奴ってことです←