短編

□今だ何も掴めず
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動きにあわせて揺れる首巻を追う。
掴もうとすればすり抜けてまた掴もうとして、逃げられる。

じれったくなって、呼びかけた。

「なぁ、山崎」

応えは無い。
寧ろ前を行く足音がさっきより早くなった気がした。俺も合わせて歩く速度を速める。
この一連の動作はもう四、五回は繰り返している気がする。
いやもっとかもしれない。

「無視するなよ」

また首巻に手を伸ばすが寸でのところでまた逃げられる。

どうして俺だけこんな態度なんだろう。
同じ監察方なのに、無視とは…仕事の時如何すればいいんだ。
いや、問題はそこじゃない。
俊は別として、山野や楠にだって挨拶を交わすとか、それなりに交友はあるのに何故俺は無視なんだ。

何か悪いことでもしたのかと考えてみた事はあるが、そんな余裕はなかったはずだ。
それよりも、今気になるのは、微かに香る嗅ぎ慣れてしまった匂い。

「お前さん、怪我してるだろ」

「…。」

見た目分からないが、良く見てみると足を引きずっているようにも見える。

少し反応してくれたっていいのだが、今だ山崎は止まらない。

「おいってば」

「黙れ」

やっと返事をしてくれたと思ったらその言葉だった。
突然、振り返ったのであわてて俺は足を止める。

「島田…怪我の事、他の奴に言うたら、」

「ん?」

キッと睨みつけて一言。


「殺したる」

また歩き出す山崎を引きとめようと再度、首巻に手を伸ばそうとしたら鬱陶しそうに弾かれてしまった。

嗚呼、なんで俺って嫌われてるんだろう。


今だ何も掴めず
疑問も、信頼も、


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島田さん本編で空気だからここで出張ってみた。
多分続きます。

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