短編

□光に影あり
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「あーもぅ暴れるなってばさぁ」

平助が両腕を背中に回して押さえこんでも未だに若い隊士はいやいやと首を振りながら暴れ回る。

横に置かれた剥き出しの脇差しに触れようともしない。見てるだけでイライラしてきた。
いっそのこと斬ってしまおうかと刀に手を伸ばそうとしたが、やっぱり止めた。
小物ごときに腕を振るう必要はないし、第一、切腹させなかったらさせなかったらで土方さんが煩そうで嫌だ。

「潔くやっちゃってくださいよーえーと…橋本さん…?」

ついに喚き散らし始めた隊士に呼び掛けるが既に錯乱状態で僕の声は届かない。
代わりに平助が答える。

「違いますよ沖田さん、こいつは橋口って言うんです。」

「どっちでもいいですよ。」

この隊士は長州藩士と一対一で切り合いになり、結局一方的にやられて逃げ帰ってきた腰抜け。名前なんて覚える必要はない。

「早く、早く、はーやーくー」

金切り声のような声がいやに耳について余計苛ついてきた。

もう本当に斬ってしまおうか。

腕を切り落とせば切腹は出来なくなるからせめてあの目障りな両足ぐらいなら許されるかな。

かちりと鍔を押し上げたとき、暴れていた隊士が弾みで脇差しを蹴り飛ばした。
その脇差しはくるくると畳の上を滑って今まで黙って壁に背中を預けていた永倉さんの足元に当たって止まる。

永倉さんはそれを手にとって隊士の方へ近づいて行く。

「まぁ、平助そんな強く押さえ付けてやんなよ。」

「えー。」

何故か隊士を庇うような穏やかな言い方だか、永倉さんの表情は冷たい。
助けてくれるのかと勘違いしたらしく隊士は暴れるのを止め、永倉さんをじっと見つめる。

「暴れるのも無理ないよなぁ…切腹の仕方わかんねぇんだろ?僕が教えてやんよ。」

「え…」

永倉さんの言葉に隊士の血の気が引いていくのが分かった。

「ほら、よく見とけよー」

そう言って隊士の腹に脇差しを突き立てズブズブと押し込んでいき、そのまま綺麗に一文字を書くように横に引き抜いた。
脇差しの切っ先に絡み付いた臓物が一緒に飛び出して畳を汚す。

「橋田、分かったか?」

「新さぁん、橋口だよ。」

「どっちでもいいわ。」

もう隊士は既に虫の息で永倉さんの質問には答えられなかった。いや、答える暇もなく平助が首を刎ねた。

「さて、土方さんとこ行ってこよー」

終わった。終わった。と一度背伸びをして部屋を出る。このイライラは土方さんを弄って解消することにしよう。

そう思いながら部屋をあとにすると後ろから「着物が汚れちゃった」だの「後片付けが面倒」だの二人が言い合う声が聞こえた。

「あ、沖田さん」

「やー尾形くん」

ふと曲がり角で尾形くんと鉢合わせになった。尾形くんは少し気まずそうに俯いて僕に尋ねる。

「なんですか?」

「あいつ、ちゃんと出来ました?」

あいつ、とはさっき果てた隊士のことだろう。なんだ尾形くんの知り合いか、

「大丈夫ですよ、」

軽く手を肩の上にのせて

「潔い最後でした」

微笑んだ。


光に影あり



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いつもニコニコして仲良しだけど怖い一面もあるよーってところを書きたかった。

普段は素で優しいけど新撰組の邪魔になるやつには容赦無い彼ら
それだけ新撰組が大事。みたいな

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