短編
□彼なりの努力
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島田から寝返り踵落としを喰らい、俺は目覚めの悪い朝を迎えた
一先ず顔を洗おうと井戸へ向かうと既に先客がいる
後ろ姿を見る限り、俺の知っている人だった
「お早いですね、斎藤さん」
「あぁ、おはよう」
ゆったりとした動きで振り向く斎藤さんは朝とか昼関係無しに眠そうな目をしている
彼は丞よりも感情を表に出さない
いくら無表情な丞でも時々冗談を言ったり、微妙だが怒ったりもする
しかし彼が冗談を言ったのを聞いたことが無いし、怒ったことも見たことがない
斎藤さんはホントに無表情な人だ
さっきからその彼の眠そうな目がジッと俺を捉える
「…俺の顔に何か…?」
「…いや、何でもない」
声を掛けられて我に帰ったのか弾かれた様に俺から視線をそらす
そして背を向けると足早に去って行ってしまった
…一体、なんなのだろうか
そして次の日の晩、自室に向かって歩いていると突き当たりで斎藤さんにバッタリ合った
「あ、斎藤さん」
「…君か」
おやすみなさいと挨拶して斎藤さんを横切ろうとしたら「おい」と呼び止められた
「何でしょう?」
はて、俺は何かしただろうか?
と思いながら振り向くとまた昨日の朝と同じ様にジッと見詰められた
「…」
「…」
「…」
「…;」
暫く沈黙が続いたが俺は痺れを切らして、口を開いた
「俺、なんかしましたか?」
「…」
斎藤さんはダンマリだ
「もう行っていいですか?」
「いや、待て…あと少しだ」
何がだ
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