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 たい風が肌を撫でると体内で熱を作ろうと筋肉が伸縮する。ぶるりと震えたところで熱は全身へは回らず指先の感覚も無くなり、上手いようにボールに指が掛からない。息を吐き出して指を温めと幾分かマシになり、盗塁練習用に最初から一塁に居る走者を目だけで確認しセットポジションを取る。


(外角低めにチェンジアップ?)


 指の引掛りが不安だったが、利央から送られるサインに頷きグラブの中でボールを握り、もう一度走者を確認する。
振りかぶってサイン通りにグローブへ向かって投げた筈のボールは、予想よりも大きく外れて捕手の後方へと飛んでいってしまった。



「指に感覚無くなってきたら言ってよー!俺が怒られたじゃん!!」
「ってえ…。今突き飛ばしたから拳骨3回分」


 思っていた以上に指先の感覚が無くなっていたらしい俺は、バックネットの方へ真っ直ぐ飛んでいくボールをただ見ていることしか出来なかった。
悪送球をしたものだから当然走者は進塁していて、バックネット裏で監察していた監督は捕手である利央に投手の違和感も分かんねえなら他と変われと怒鳴られた。


「いったああい!何で3倍返しなの?!ちょっと押しただけじゃん!」
「やられたら3倍返し。これ、高瀬家の家訓。」


 横暴だの何だのとギャンギャン騒ぐ利央に、だったらお前も3倍返ししてこいよ。と挑発的に言い捨てると、そんなのまた3倍返しでやり返してくるんでしょ?!と先に種明かしをされてしまい内心舌打ちをすると、それに、と利央は言葉を続けた。



「やられたからやり返して良いって言う道理は無いって母ちゃんに怒られるもん!」
止めて!マイマザーに殺される!!





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他所は他所、うちはうちルール


09,10,16



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