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 が真上に昇るころには気温も暖かくなり額に汗が浮かぶ。昼食を中庭で取り終え燦々と降り注ぐ太陽の光をめ一杯に受けると腹も満たされ眠気が襲ってくる。
高瀬は天を衝くように伸びをすると所々の関節が軋み、脱力すると気持ち良さから目尻に涙を浮かべた。


「好き嫌いなさそうなタケがひじきだけは食べられないって変な感じだよな」
「どうもあの黒くて何とも言えないしなり具合が口に合わない」
「そんなんじゃ大きくなれないぞ、食え」
「今でも十分デカいからいい。むしろデカ弁食った後パン2個食った奴が俺より小さいことの方が重大だろ」
「それは遺伝子のせいなんで俺の両親に言ってください」


俺より軽いとかふざけだわあ、と付け足すとゴロリと後ろにひっくり返り寝に入る態勢を取る。食った後寝るとブタになるぞと呟くと嫌々ながら起きあがった。


「準太は嫌いなもの無いのか?」
「あー…。うん、ボールがこわい」



お前何部入ってんの



「野球部」


 しらりと答えた目の前の相手を唖然と見ていると、何を今更と言うように見つめ返される。
高瀬とは高校からの友人だが、同じ野球部で同期のスタメンとして周りのものよりも知っている筈だったが、まさかそのエースがボールを怖いとは今の今迄知らなかった。


「ボールってあの丸い球だよな?」
「そうだよ、あの白くて硬くて手の平サイズのボールだよ。うわあ、想像しただけも背筋が凍る!」



 昼休憩後の授業が特別棟のため中庭の脇にある渡り廊下を移動していた仲沢が偶々中庭で話していた2人の会話を耳に入れた。
中学時代から高瀬のことを知っている仲沢は、高瀬の弱点が分かり良いことを聞いたぞと思い、日頃の仕返しとばかりにその日の放課後スポーツショップに寄り大量の白球を購入した。






「10分休憩!」
「毅彦トイレ〜!」
「黙って行ってこい!」


 へい、と大きく返事をするとダッシュで近くのトイレへと駆け込む高瀬に袋を持った仲沢が後を追う。


(準さん個室に入った!)


 何てタイミングが良いんだと思い、新品の眩いばかりの白球がしこたま入った袋を高瀬がいるであろう個室に引っ繰り返すと人間とは思えないような奇声を一瞬だけ上げると声がしなくなった。


「あれ…?準さ〜ん。え、もしかして沢山のボールに吃驚して死んじゃった?!」


 どうしようどうしようと慌てた仲沢は、兎に角誰か呼ぼうと思い、急いでトイレを飛び出しグランドにいる青木に泣きついた。


「タケさんどうしよう〜俺準さん殺しちゃったかも〜」
「はあ?何いって、」
「皆の者喜べー!大量のボールが手に入ったぞー!」


 泣きっ面のまま声のする方へ振り向くと、先ほどショック死させてしまった筈の高瀬が喜々とした顔で両腕いっぱいの白球を抱えて走ってきた。


「準太…、また利央をハメたな」
「まさかこんなにあっさり騙されるとは思わなかったわ!」
「え、準さんボール」
「利央、[まんじゅうこわい]って分かるか?」





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無知は時として損をする


09,11,01


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