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□event
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高2の冬、寒さで痛みが通常の3割増で指の関節にギシギシと掛かる季節。
俺達運動部は、そんな寒さと痛みに堪えながら今日も今日とて部活に励んでいた。
(ホワイトクリスマスになんのかなー…)
休憩中のベンチから見上げた空は、澱んだ灰色に覆われ今にも落ちてきそうなくらい重く太陽を隠していた。
(彼女も居なけりゃ、クリスマスまで部活の俺には無意味な単語なんだけどね)
持っているカップに少しばかり残った飲料を一気に飲み干したと同時に、遠くで河合から休憩終了の声が掛かった。
帰りにコンビニ寄っておでんでも食べるかな、とグローブを持ち伸びをした時に遠くに見える中等部の部室の一室だけがやけに明るいことに気が付いた。
「慎吾!早く守備位置に行け」
「わりっ、和己。(後で見に行くかな)」
(まだ点いてる…)
部活も終わり、部室に着替えに戻る途中気になっていた中等部の部室棟前に行くと、離れたグランドから見るよりも、近くで見た方が一段とそこだけ輝いているのが分かった。
窓から中を覗くと、金髪の少年が少し音程の外れたクリスマスソングを鼻歌混じりに歌いながら飾りつけをしているのが分かった。
(鼻歌なのに音痴って…、逆にすげーな)
違う意味で尊敬しながら、時間も時間だったので少年に帰るように声を掛けようと窓ガラスを軽く叩いた。
中にいた少年は、窓の外にいた島崎に気が付き窓を開けた。
「中坊がこんな時間まで学校にいちゃダメだろ」
「誰」
「おいおい…、仮にも高等部の先輩にタメ口は駄目だろ」
少年は俺の姿を見るなり野球部にこんな人居たっけ?あ〜…、途中から来た人か。と1人で自問自答をし、勝手に自己解決してしまった。
「俺は、あんたにお世話になってないし、名前を名乗らない様な人に敬語なんて使わないよ」
「んっ、のガキ!(色々と腹立つんだけど!…でも、気になる好奇心は抑えらんねえし)」
決して長くない理性を何とか切れないように止め、此所は穏便にことを済ませてさっさと帰ろうと思った。
「で、何でこんな時間までクリスマスの飾り付けなんてしてたんだよ」
「サンタが分かるように」
沈黙。
今目の前に居る中坊は何と言った?分かる?分かるって誰にだよ。サンタだよ。
「サンタアアアア?!!」
「ちょ、分かってるよ!サンタが居ない事ぐらい」
「おいおい、冗談は金髪だけにしとけよ?」
「地毛だもん!」
サンタが居ないと分かった上で、場所が分かるように飾り付けしてるって今時の幼稚園児でもやらねえだろ!
今時こんな純粋バカに会えるとは思わなかったと、目尻に涙を溜めて思わず爆笑してしまった島崎。
「笑うなよー!だって、去年サンタさんが俺達野球部にバットとボール贈ってくれたんだぞ!」
「何お前野球部?野球部は、何時からそんな純粋ボーイの集まりになったんだよ。マジヤバい…腹いてー!」
窓の桟をバシバシと叩き、収まる事のない笑いに腹が捩れて来た頃、目の前の少年はワナワナと肩が震えだした。
流石に怒るか、と臨戦態勢に入ると少年はそのままドアに向かって走り出してしまった。
「あっ!おい」
「サンタさんは居るんだバカー!!」
「あ〜あ…、涙流して言い逃げって何時の時代のリアクションだよ」
サンタはいると叫んで家を飛び出した15の夜 粉雪が眼にしみた
「あれから一年ですよ?」
「あんときは、マジで殴ってやろうかと思ったよ」
「まさか慎吾さんが先輩になるとは思わなかったし…」
「頭良ければ呂佳さんに誘われたのにな〜」
「ニヤニヤしないでよ!人が気にしてることをさー!!」
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高2慎吾と中3利央の出会い
08,12,26
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