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水谷の席は窓側一番後ろ、絶好の昼寝場所。
「おーい水谷、昼食べるぞ〜。」
花井が気持ち良さそうに寝ている水谷の頭を小突くと、低く唸るだ
けで起きる気配が無い。隣りに立っていた阿部は待ちきれずに机を
足で蹴り上げた。
急に強い衝撃がきたことにより、驚いた水谷はガバッと顔をあげて、何が起きたのかとキョロキョロと周りを見た。
「うわっ、水谷汚ね!」
「涎垂れてるぞクソレ。」
うへっ、と慌てて袖で涎を拭こうとしたので花井は水谷を制止させ、阿部はポケットからティッシュを取り出した。
「わり〜」
袖で拭いたら汚ねえだろ、飽きれた阿部にあはは〜と締まりのない
顔で笑いかける。
そんな顔を向けられては何も言えず、阿部は胸中愚痴を零し席に座った。
「あふぇはほっほ…」
「口にもの入れてしゃべるな。」
ぴしゃりと花井に言われると、口のものを飲み込み改めて、
「阿部はもっと俺に優しくするべきだよ。」
「はあ?」
意味分かんねえと、つっけんどんに言うが意中の相手にそんなこと
を言われれば、少なからず傷付く。
阿部の気持ちを察して、阿部はお前以外にも厳しいだろ、花井がフォローを入れると嘘でえいと頭の後ろで手を組み、箸を口に咥えたまま阿部の自分に対する態度を言う。
「脱いだ洋服は畳め、ノート汚ない、水浴びたら体拭けって言うん
だぜ〜?」
畳まない服を畳んでやり、寝ている教科はノートを取ってやり、何
時か風邪引くぞあの馬鹿と呆れながらも世話を焼く阿部の姿を見て
いる花井としては、その行為が報われていないことに対して不憫で
しょうがなかった。
阿部は嫌われたかと哀しさの余り下を向いてしまった。
落ち込むことなんてあるんだ、珍しがるように花井が視線を向ると、水谷は気がつかないのか机にダラリと体を乗せ、チョコを食べ始めた。
「仲良くしませんかー?」
チョコを差し出され、混乱しているとはいあーんですよ〜隆也君と
目元を下げ楽しそうに見てくる。
(仲良くねえ)
いまの関係以上を望む自分としては不服だが、まずは仲良くし
とくかと思い、指し出されたチョコを水谷の指からパクっと口に含
む。
と、いきなり教室の後ろから悲鳴に近い声が聞こえた。
「阿部ずりー!俺あ〜んなんてされた事ないのにー!!!」
ずりいずりいと言いながら、他のクラスだということもお構いなしに堂々と入ってくる田島に3人は夫々の反応を見せた。
「お前はもっと静かに来れないのかよ…」
「よっ、田島。どうしたの〜?」
(一番見られたくない奴に見られた…)
頭を抱える花井、お気楽な水谷、青褪める阿部、そんなのお構いな
しな田島。
「はい、花井。辞書サンキュー」
「田島、落書きすんなって言っただろ?!!」
「だってつまんねえんだもん!!」
横で痴話喧嘩をする2人を尻目に
「仲良くしような〜」
締まりのない顔で笑いかける水谷に、恥ずかしさから直視出来ない阿部が居た。
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