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朝の教室ではSHRが始まるまで話す生徒で騒がしい中、3年4組の教室の廊下側、窓の直ぐ脇の一番後ろの席が本山の席。

そして、その前の他の生徒の席に後ろ向きで跨がる山ノ井の姿があった。



「坂の上の駄菓子屋知ってる〜?」
「あ〜…、ボケた婆ちゃんがやってる?」
「そ〜、アイス買ったら当たりで交換したら、アイスは取ったかい?って手に持ってるのに聞くからお言葉に甘えてもう一本貰っちゃった〜」



陽気に言う山ノ井に対して本は、返して来なさいと呆れていた。

山ノ井は山ノ井で頬を膨ませ、何でい本山のくせにと口を尖らせ本山の頭にチョップをいれていた。



「ちょっ、山ちゃん地味に痛いから」
「朝から元気だな〜」
「よっ」



窓から顔を出した島崎、河合は挨拶をすると2人のやり取りに苦笑いを浮かべた。



「和己、山ノ井さんの反抗期を止めてっ痛…、」
「ははっ、山ちゃんそろそろ止めてやらないと本やんの頭が駄目になるぞ〜」



半分笑いながら河合が止めに入ると急に立ち上がり、向いの渡り廊下へ小走りで向かった。



「なあ、もしかしてさ…」
「おはよう御座います」



いきなり現われた人物により、河合以外の2人は肩をビクつかせ引きつった笑顔で挨拶を返した。



「毅彦が3年の教室まで来るなんて珍しいな!」
「っす。あの、山ノ井先輩居ますか?」



素直に驚く河合に対して、島崎、本山は山ノ井の急な行動に納得した。

山ちゃんなら今先生と話してるぞ、指差す方向に視線を向けると教師と後ろ姿だか山ノ井であることが確認できた。



「話し中なので、昼休憩の時に話がある事を伝えておいて下さい」



逃げるな…、と思ったが伝言しておくことを伝えると頭を下げ、重いスポーツバックを抱え直し自分のクラスへと帰って行った。

そして、入違いで山ノ井が戻って来た。



「宿題忘れたから裕史見せて、うふっ」



顔の横で両手を合わせ、首を傾げてお願いしてくる山ノ井にノートを渡すが直観力が鋭い島崎と本山は顔を見合わせ苦笑いを浮かべた。


予鈴が鳴り響き、6組の二人は言葉短く別れを告げ教室へと向かった。



「山ちゃん本当は宿題忘れてないでしょ」
「忘れました〜」
「タケが昼休憩の時話があるってさ」



一瞬無表情になったが、直ぐに口元をあげ、ふ〜んと返事を返すが目が笑っていないことに本山は気が付き、これは何かあったなと確信した。





4限目のチャイムがなると、生徒達はバラバラと立ち上がり昼食のために購買に行くものや食堂に向かうものがいる中、野球部は夏大に向け午後は部活なので本山と山ノ井はグランドへ向かった。

昼食の前に一年はグランド整備をし、二年はノック用のネット運びとピッチングマシンの準備をしていた。

その光景を見ながら三年はベンチで一足早く昼食を食べていた。



「山ちゃん弁当食うの早いな」
「部活前にお昼寝してくる〜」
「遅れんなよ〜」



松永の言葉に、は〜いと元気に手を挙げ何処かへと行ってしまった。



「お腹減った〜 和さ〜ん」
「一緒に食べて良いですか? 」
「良いぞ。準太、そっち日があたるからこっち座れ」
「はいっ! 和さんレモン漬け食べますか」
「ただで際暑いのにさらに温度上げんなよ夫婦、迅ちゃんこっちおいで〜」
「慎吾さん俺は?!」



準備も終わり、昼食のために屋根のあるベンチへと移動してきた後輩達を迎えると、青木が辺りに視線を向けていることに気が付き、前川が早く昼食を食べる様に言うと山ノ井先輩を探していると言う。



「山ちゃんいる〜?」
「山ちゃんなら昼寝しに行ったぞ」



松永にどの方向に向かったか聞くと、倉庫の方へ行ったと返され急いでそちらに足を向けた。



(居た)



倉庫の裏にある木に寄りかかり、寝る山ノ井を見つけると、当の本人は直ぐに目を覚まし、目の前に立つ人物を確認すると、何か用?とぶっきらぼう返した。

昨日の部活から態度がおかしいが自分は何かやったかと聞くと、山ノ井は横を向いたまま何も言わない。

それでも青木は山ノ井が何か言うまで黙って待っていた。



山ノ井は痺れを切らしたのか、顔をそのままに視線だけ青木に向けギリギリ聞こえるか位の音量で一言言った。



「何ですか、はっきり言って下さい」
「だから〜 その緘黙(かんもく)な態度がムカつく」


意味が分からないと肩を落とすと、コップから水が溢れ出すように今まで溜まっていた事を山ノ井は言い始めた。



「俺が好きって言ってもお前からは言ってこないし手を繋ごうとすると歩く速度あげるし電話するのもメールするのも俺からだし告白だって俺からだし何か俺ばっか好きみたいでムカつく」



一息で言ったのが疲れたのか膝を抱え頭を埋めると、震える声でこんなことなら片思いのままの方が良かったと言ったきり黙ってしまった。

青木は今までの微妙な態度の違いの意味を理解した。




「俺は今まで恋愛に対して免疫なかったんで、先輩の行動にどう対処していいか分からなくて困ったんです。」



抱き着かれても勝手にさせることしか出来ないし、好きと言われても何も言えなかったと青木は今までの事を説明した。



「先輩に告白された時も凄い嬉しかったんです。…でも、何て返して良いか分からないくて…。付き合うって事もどういうことか良く分からなくって…」

「本当言うと、先輩に触りたくて仕方ないんです。でも嫌われるのが嫌で何も出来なかったんです」



青木の本当の気持ちを聞き、お互い勘違いしてたのかと山ノ井は恥ずかしさが込み上げてきた。



「じゃあ抱きしめてよ。触りたいんだろ?」



睨むように視線をあげると、頭を包む様に腕を回され、肌に感じる青木の体温と土の匂いが嗅覚を刺激し、心が落ち着いた。



「先輩」



顔をあげるとそのまま触れるだけのキスが落ちてきた。



「触りたいなんて思う俺を嫌いになりましたか? 」



返事の代わりにキスを仕返し、口元に微笑を浮かべ、今度はこれ以上を期待してますよ?と青木の肩に体重をかけ、弾みをつけて立ち上がった。

グッと背中を伸ばすと、休憩しゅうりょ〜部活だよ〜と先にグランドに行ってしまった。




青木は木の下で山ノ井の後ろ姿を目で追うばかりで暫く動けずいた。





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