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グランドに集まったら整備をして、道具を準備して、大体全員集まったら準備体操をしてランニング。
何処の部活でも、何処の学校でも、全国を見ても大体部活前に行われるこれらは練習をする上では当たり前にやってこられた習慣だ。
この習慣をやっていない処は何処を見てもいないだろう。
それと、俺の下で柔軟体操をしている長身の男の柔らかさも、全国の男子高校生の中でもなかなか居ないだろう。
俺の下に居る、正しく補足すると"俺の下で柔軟をしている"こいつ、モトやんこと本山裕史は、一塁手になるための条件、と言うのか?に果てしなく一致している最適な能力を全て持ち合わせている。
どんな球も捕れる長身に、リーチの長い手足、守る上で効率の良い左利き。
そして、何よりこの柔軟性の高さ。
俺は、入部して初めての練習の時、周りが誰かを囲ってすげーやらやわらけーと賛美する声が聞こえてきたので興味本位でその囲まれている奴が誰か確認しようと近づいて見た第一声が、気持ち悪。だったのと、俯きでその長い脚をカエルのように曲げ、踵がケツについている気持ち悪い姿を鮮明に覚えているが、それでもこいつが頼りになる一塁手に間違いないことは俺を含めて部員全員が保障する程良い一塁手だ。
それでも、それでもこれは気持ち悪過ぎる…。
何だよこの気持ち悪いブツ。もうこいつは人類じゃない、哺乳類な訳がない、きっとタコとかと同じ軟体動物だ。
無脊椎動物に違いない。でなけりゃこの気持ち悪いヤツは誰だ?
和己達捕手の奴らは、どんなボールも後ろに流してはいけないからと男の骨盤では絶対に出来ない内股座りが出来る。
それは、日々の努力無くしては出来ないワザのようなもの。
それと同じで、1番ボールが集まる一塁を守るファーストは、少しでもリーチを長くして捕球するため足を開脚させるので、骨盤の広さが要求される。
キャッチャーやファーストじゃなくても、運動をするものには怪我の防止のためにも硬いより柔らかい方がいい。
柔軟性は、無いよりあったほうが断然良い。
だが、こいつの柔らかさはなんだ。
先ほどからやっているビックリ人間ショーの様な有様は…!
何故180°開脚したあと上体を地面に付け、そのまま足を後ろに流して閉脚の形に戻せる?!
何故両脚を頭の後ろで組める?!何故体を反って足の裏と頭がくっ付くんだ?!…意味が分からない。
いちいち突っ込んでいたら、どんどんヨガのような形にまで変わってきていて最早何処から突っ込んでいいのか分からなくなっていた。
何も言わなくなった俺に、目の前の軟体動物は次々と技をきめていく。
いつの間にか集まっていた他の部員達が、もっとやれだのと野次を飛ばしている。
ヤマちゃんに至っては面白おかしく解説付きで実況する始末。
もう、どうにかしてくれ…と和己に話すと、ちょっと笑った後に、仕方ない!あれは、モトやんの専売特許だからな!と面白そうに返してきた。
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