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□req01
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 露が朝日にきらりと光る午前7時。校門の横の葉桜となった木の下を通る2つの影が、まだ人気の無い静かな教室に入っていった。



 赤く小さな斑模様が浮かんだ左手に何とも言えない感情が湧く。
 朝の練習でランニング後に河合とキャッチボールをしようとグローブをはめた島崎に異変が起き始めたのが数分後。グローブに小気味良い音と共に収まる痛感が感じられず眉をしかめた。違和感を感じた河合が、どうしたのかとキャッチボールを中断したので島崎もはめていたグローブを外したら酷い有様の左手が現われた。河合はそれを見た時うわっ、と小さく零した声に重なるようにしてくつくつと笑いを堪える声も聞こえた。何を仕込まれたのが分からなかったが、犯人が本山、山ノ井の2人であることは明白になった。そして、島崎の左手を確認した瞬間、ダムが決壊したように大声で笑い出した。

 そんな今朝の散々な一日の始まりに溜息を吐き、机から1限目の教科書を出したら教本と思っていたものが『セーラー服を脱がして〜エロチカ学園パラダイス〜』、アダルト本にすり替えられていた。
「はあっ!!?」
突然の事に勢いよく立ち上がったため机がひっくり返り中の物が全て出て来てしまった。すると、近くにいた女子が一斉に悲鳴を上げた。原因は、床に散らばった大量のアダルト本だった。
「得意な教科は保健体育ですかー?」
「島崎くんのえっち〜!」
声が聞こえた方に視線を向けると、廊下に面す窓から顔を出し野次を飛ばす凸凹コンビがいた。「慎吾は助平ー!」と大声で叫ぶだけ叫ぶと颯爽と走り去った。残された6組の生徒は、呆然と立ち尽くす事しか出来なかった。



「本日もぜっこーちょーなり〜」
「6組の奴等の顔さいこーだわ!」
 屋上に上るための階段の途中にある踊り場で東急○ンズと書かれた大袋を漁る本山と山ノ井。変身メガネや舞踏会風マスク、パッチンガムと次のネタ仕込みに集中していた2人は、背後の気配に気付かずにいた。
「おーまーえーら〜…」
ゆっくりと顔を後ろに向けると、走ってきたのか息を乱した島崎が仁王立ちで立っていた。しかし、その顔には威厳を削ぐように目の回りが丸く縁取られていた。
「うわー…これまた綺麗にハマってくれましたね〜」
「瀧廉太郎みたいじゃん慎吾」
「何で顕微鏡の縁に油性絵の具が塗ってあんだよ!」
全く反省していない2人に飛び掛かると、本山は抵抗することなく降参とすんなり捕まった。しかし、山ノ井は意地でも捕まるものかと島崎の脇を上手く通り階段を降りようと思った瞬間、バランスを崩し体が傾いた。



「何やってんですか」
「……っ?うおータケじゃん!」
バランスを崩し、危うく階段から落ちそうになった山ノ井をタイミングよく現われた青木によって免れた。
「毅彦は大丈夫か?」
「そんなヤワな鍛え方してませんよ、慎吾さん」
そんなことより、と続けた青木は化学の先生が探していたことを告げられ、補習でやっていた実験をほったらかしていたいたことを思い出した。
「ヤバ…!俺行くわ」
「慎吾さん、これ油性も落とせる石鹸です」
投げられた石鹸を片手でキャッチした島崎は、元来た道を来たときと同じように走っていった。





青春マキャベリズム





「ところでさっき、生活指導の先生が教科書捨てたの誰だって怒ってましたよ」
「あちゃー…ゴリ男に見つかったか」
「女子更衣室に置くんじゃなかったな〜」










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次は後書です。

09,01,24


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