text

□Challenge!
8ページ/53ページ





今日は、生憎の雨模様。
どんよりと重い雲が空を覆っている。
じめじめとした空気の中、校舎内で筋トレをする運動部が所々に散らばっていた。


野球部も例外なく特別棟をまるまる使っての大型練習中であった。
各自で準備体操をしたら、一階から最上階まで階段ダッシュ、そのまま最上階の廊下を反対側の階段までダッシュ。そして、最上階から一階まで駆け降りる。
これを、タイムを計っているマネが居る所までで一周。それを、3セット。


早くに終えてしまえば、最後の者がゴールするまでまるまる休める。が、あまりにも最後尾が遅いと連帯責任でプラス2セット。
これが終わったら、二人一組になって筋力トレーニング。腹筋、背筋、腕立てを各20回。それらを、5セット。


これら全てをクリアしたものから、各自解散することが出来る鬼のような練習メニュー。
少しでも休めば、獲物を狙う鷹のように眼を光らせている監督からの追加が言い渡されるため皆必死であった。


しかし、流石に3年もやっていれば免疫がつくもので、続々とクリアしていく三年生が疎ましい。



「和…、俺  そろそ、ろ昼に食ったそばが、戻り、そうだ…」
「今リバースしてみろ?いくら俺でもぶっ飛ばすぞ…」



河合が島崎の膝を抱えて腹筋をしている最中に零された一言。
俺だって、喉の先まで出かけているうどんを必死で耐えてんだからな。と青白い顔で返した。


入部してから大分日が経つが、中学時代と比べ物にならないほどの練習量に一年生達は顔面蒼白だった。



「っ、はあー…。やっと3セット目終了〜、次和己なあ」
「あ"ー、マジ山ちゃんと本やんが羨ましい……」



お互いの位置を交換しながら視線だけ言われた人物達に向けると、何やら叫んでいた。



「みそ、ラーメン!」「17!」
「カレー、…ライス!」「18!」
「オム、ライス!」「19、ラストー!」
「特盛カツ丼 、だー!」「最後にそれかー!」



ただでさえ込み上げてくるものを耐えるのに全神経を使っているのに、それを逆撫でするかのような叫び声。
しかし、いくらどんな妨害行為があろうが、今ここで手を休めたら容赦なく監督の怒声が飛ぶであろうことは火を見るより明らかだった。


未だに叫び続ける二人のフルコースを、至極無視して残りのメニューに集中した。


そして、集中すること数十分。やっとの思いで全メニューをクリアした河合と島崎は、力なく廊下に倒れ込んだ。
二人から少し遅れて本山、山ノ井コンビも終わり二人に近付いてきた。



「御二人さんもこのあとラーメン屋行かないー?」
「今日は、学生デーで得盛丼セットが通常の半額で食えるんだぜ!」



先ほどのやり取りに納得した島崎だが、ついさっきまでの鬼メニューを物ともしていない二人から上から覗き込まれ返す言葉が無い。
河合も同じ思いらしく、力なく笑うと、今日はパスするわと誘いを断ったので、島崎も右に同じと断った。


口を尖らして付き合い悪いなあ、とボヤく二人に苦笑いでしか返せない河合と島崎だった。


突然自分に影が掛ったので、監督だろうかと両腕に力を入れて体を反転させ上半身を上げて相手を確認すると、そこには呂佳が居た。
筋トレの汗も引き、もう上がるのかと思っていたら、突如そのまま仰向けの島崎に跨った。



「相手の頭を包み込むように自分の手で掴み、両のこめかみを、挟み込むように締め上げる」
「っ…!!?」
「慎吾おおおおおおおおお」



大丈夫大丈夫!怪我したら保健室まで誘導してやるから!







突然の事に、訳も分からず先輩からの愛の鞭を受ける島崎。
横で一部始終を見ていた河合の顔から、血の気がどんどん引いて行くのが周囲の者から見てもよく分かった。



「ろ、呂佳さ…ん」
「終わったんならチンタラしてねえでさっさと帰れ、このタコ!何時まで経っても鍵が閉めらんねえんだよ!!」



呂佳は、そこいら中にヘバッている部員にも牽制するかのように大声で言った。



「呂佳ー!新技試したいからって一年坊オトすなー」
「バーカ、オチたら保健室まで運んでやっから大丈夫だ」






次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ