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□Challenge!
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 は快晴、風は東向き、湿度上々。太陽に照らされたコンクリートからアスファルトが揺らめき、肌をチリチリと焼く感覚と遠くに聞こえる蝉の声がまさに夏を思わせる。

扇風機にあたり、ガリガリ君をかじっている時に鳴り響いた携帯電話を取ると、学校横の土手に集合と言う言葉を残し、有無を言わせず電話を切った相手は腐れ縁の山ノ井圭輔。また変なことでも思いついたのだろうと思ったが、携帯と財布を引っ掴むとちょっと出かけて来るとだけ言って家を出た。

自転車を飛ばして数分、先ほど電話を掛けてきた張本人とその相方本山祐史が俺を見つけるなり、手を上げて早くこっちに来いと急かす。


「まーた変なことでも思いついたんだろ?」
「人類の進歩には思いつきが肝心なんだよ。」
「そ〜そー。疑問から新たな発見が生まれるんだから〜。」


 良い事を言っているのが逆に腹立たしいが、今回やろうとしていることは今までとはまた違ったものだった。前回はスーパーボールが何処までの高さなら跳ね返ることが出来るのか、その前はモーターカーがどれだけの電力なら耐えうるのか実験していたが、今回の実験はかなり手が凝ったものだ。しかし、こいつ等がやろうとしていることは一目瞭然、火を見るより明らかなものだ。どうせ、この間のテレビで触発されたものに違いない。


「ほんとーお前らジブリ好きだよな。」
「人間が空を飛ぶ夢は18世紀も前からのモンだぞー。」
「慎吾バカにすんなよ?これはね〜、」


 どこぞの少年でも無いのに自転車にエンジンを乗せ、どこまでも軽量化した羽とプロペラ。いっそのこと鳥人コンテストにでも出ろよ、と言いたくなるような代物を作り上げたこいつらの努力は認めてやろう。確かに昔の俺なら面白がって一緒にやっていただろうが、この歳にまでなって本気で人間が空を飛べるとまでは思っていない。先日、スイスの元軍人がモモンガみたいなジェット機作ったとか、タケコプターのようなものが完成したとか人間が単独で空を飛ぶ日も近いと報道されていようが、断じて信じてやるものか。


「ほら慎吾やるよ〜!」
「慎吾も自転車押すの手伝えー!」



不可能を可能に この陳腐な言葉も有りだろう





‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
今だけ、…今だけこいつらを信じてやろう。


09,08,01


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