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□Challenge!
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 別棟で授業だった三年一組は教室への帰り道を歩いていた。すると、反対側から偶然にも鉢合わせた監督と目が合った前川は一枚のプリントを渡された。内容を読むと今後の部活の練習スケジュールだった。

「監督、…去年より休日の練習試合増えてませんか?」
「お前たち3年が抜けた後の穴をすぐ埋められるように実践経験積ませるためだな。レギュラーのほとんどが3年だと来年が大変だしな」
「ああ、なるほど」

部活前にでも全員に配っておけ、と渡された人数分のプリントを持っていた教科書の上にドサリと乗せられる。僅かに重くなったそれに力を込めると監督は職員室へと帰ってしまった。



取り敢えず3年にだけは配っておくか、と1組から回っていき、2組、3組とバラバラに散らばった部員達に渡しに回る。そして、次の4組の教室までのほんの僅かな距離からでも良く聞こえてくる耳慣れた声。しかし、今回はいつもとは違う声質だった。

「うわ、これまたどうしたの?」
「あ、前川。もしかしてアイツらに用事?そうだったら今は止めとけよ」

4組の教室に顔を覗かせ、近くに居た友人に声を掛けると飽きれたとも迷惑とも取れる微妙な顔で迎えられた。今の教室の状況を簡単に説明すると、戦場に佇む夜叉二匹が睨み合って相手の隙を探り合っているかのように、薙ぎ倒された机や椅子の山の上に立つ本山と山ノ井の姿があった。もう一度何故この様な状況になったか先ほどの友人に話しかけようと思った瞬間、二匹の夜叉の目が前川に向けられた。

「前ちん!前ちんは目玉焼きにはソース派だよな!」
「ばーか、祐史のばーか!そんな外道前ちんがするわけないだろ?前ちんは醤油派だよね〜?」

飛び掛からんばかりに素早く前川の前に移動した2人は物凄い形相で問い詰めた。しかし、前川が質問に答える前に目の前の二人がギャンギャンとまた騒ぎだす。

「(何をかけるか?…何って)、俺んちは目玉焼きには塩胡椒派だよ?」

喧騒していた2人も嘘のように黙り、目の前でにこにこしている前川に丸くなった目を投げかける。どっち派でもない新たな派に戸惑いが隠せない2人に、取り敢えず自分の使命だけは果たそうと前川はプリントを2人の胸に押しつけると何事も無かったかのように次の教室へと向かった。



喧嘩、1日で沈静



「てことが昨日あったんだよね〜」
「そうだったのかー。前ちんも度胸あるな〜」
「前ちんも和己も和みながらそれを言う?そういうことは先に俺に言ってよ。昨日入りもしないセンターからファーストへの中継やらされて監督に怒られたんだけど?」
「あっ、前ちん昨日はありがと〜!前ちんのおかげで俺達”十人十色”の意味を身を持って知ったよ〜」
「醤油もありだなってことをこの本山祐史、生まれて18年目にして理解しました!」
「え、俺への謝罪は?何で一番の被害者である慎吾さんが蚊帳の外なの?ちょ、無視は止めようよ目から冷たいもの出てきた」





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どうでも良いことにマジ喧嘩する傍迷惑な奴ら


09,04,29


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