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□Challenge!
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 室の隅にあるパイプ椅子でカチカチと携帯を打ちながら、他愛の無いお喋りで盛り上がる輪を視界の隅に捉えていた。ところどころで適当に相槌をうっていると、エナメルバッグからポテチの袋を取り出し開けようとするが、なかなか開かず苦戦している高瀬に気がついた。
(確か本棚にあったペン立ての中にハサミあったよな…。)
携帯をポケットに突っ込み本棚に向かうと、すぐさまハサミを見つけて高瀬に声を掛けようと振り向いた瞬間、激しく物が弾ける音が鳴り響いた。
「あちゃー…ポテチ粉砕。おい、利央食っとけ。」
「また俺ええ!?準さん本当に理不尽!横暴!鬼畜!」
「はんっ、褒め言葉だな。」
目尻に涙を浮かべた利央に対して、腕を組み己の非を何とも思っていない高瀬が踏ん反り返っていた。しかし、その後ろで額に青筋を浮かべている島崎が立っていた。
「じゅ〜ん〜た〜?」
「ちゅ、…ちゅーす慎吾さん。講義は終わったんすか?」
「先生が出張だったから早めに切り上がったんだよ。で?エースが傲慢なのは大いに結構。だがなあそれはマウンドだけにしろよ?」
顔面蒼白にして逃げ出そうとする高瀬の腕を掴むと、そのまま床に正座をさせくどくどと誰が部室の掃除をしているのか、部室はみんなのものだと説教をする島崎に忍び寄る影が一つ。
「あ、慎吾。後ろ。」
「は?」
うおっ、と声を発したのは山ノ井で、その手にはパイ投げの皿。寸前で足を滑らせ見事に島崎の顔面にクリーンヒット。顔の造形が全て隠れるように真っ白に塗られた島崎の姿を、松永は不覚にも噴き出してしまい釣られるように部室内の者が笑いの渦に飲み込まれた。
「わりー慎吾…。俺が声掛けたばかりに。ほらタオル。」
「…雅やんは悪くねえよ。」
そう一言返した島崎は、松永から渡されたタオルでべっちょり付いたクリームを拭き取ると、鬼の形相で山ノ井に視線を移した。



あのな、悪気は無かったんだ。俺の善意はいつもいつでも空回り



「雅也は悪くねえよ。悪いのは無神経な準太に圭輔だ。」
「和己…。仮にも旦那の準太に無神経ってのは。」
「そこが準太の悪い所であって良い所だろ?」
「(結局、惚気話かよ…)まあ、マウンドだけならな。」





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善意を無神経で返される報われない左翼手



09,03,30


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