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□Challenge!
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 任のどうでも良いような朝の連絡を聞き流しながら、空にぽっかりと浮かぶ雲を何ともなしに眺めていた。朝練からの程好い疲労と、窓から差し込む太陽の暖かさが心地よく体を包み、まだ1限目すら始まっていないと言うのに舟を漕ぎだしそうだと睡魔と格闘していた直後、後頭部に衝撃が走った。
「先生…、欠席簿も角で殴ればそれなりの殺傷能力ありますよ?」
「そうだな、本山。お前は一回転生してその緩い頭を引き締めてきたらどうだ?」
地味に痛いんだよなあ畜生、と殴られた箇所を擦りながら悪態を吐いていると担任から一冊のノートらしきものを渡された。何これ、日直簿?と中をパラパラと捲ると、その日の時間割と出来事などが様々に綴られていた。今日お前日直だからな、もう一人の日直の足手まといにならない様にしっかりやれよ。と言う言葉を最後に朝のSHRが終わった。

 先ほど渡された日直簿をまたもう一度見直すと、それぞれ個性のある筆跡で書かれていた。こんなことを今までの日直はやっていたのか、と出席番号で順番にやる日直の仕事について後ろの方の番号の本山は気付かなかった。同時に、こんな面倒臭いこといちいちやってられっか、と1限目の授業中に日直簿を全て埋めてしまおうと適当に書き始めた。黒板に書かれたものを板書しながら日直簿のマスを埋めていき、全て埋まる頃にチャイムが鳴り授業が終了した。
 書き終わった日直簿をもう一人の日直である女子のもとに持っていき、最後のマスに今日の感想とサイン書いたら先生に出しといて、と女子生徒へ渡した本山はこれで任務完了ー、と伸びをすると山ノ井のもとへ行ってしまった。
「祐史さっき何書いてたの〜?」
「日直簿だよ。あれマジめんどーなのな!1,2年の時に書いたこと無いし。」
「俺も無いかも。そんなのあったんだ。」
だよなー、と相槌を打ち、そういえばさあと話を続けようと思った時に後ろから肩を叩かれた本山は、何かと後ろを振り向くとつい今しがた日直簿を渡した女子生徒が立っていた。
「何か間違いでもあった?あ、俺名前書いてなかったとか?」
「名前は、…まあ読めたけど。もう少し丁寧に書けないかな。」
控え目に言われた言葉と開かれたノートを机に置くと彼女は自分の席に戻ってしまった。板書しながら書いてたから読みにくくなっちまったか、と山ノ井から筆記具を借り読みにくそうな処だけ重点的に書き直した。
「祐史くーん。まさかこれで担任に提出しようとか思ってないよね〜。」
「あ?何だよ山ちゃん。確かにコメント少なめだけど大丈夫だろ。」
「いや、そんなことはどうでも良いんだけどね。これ何て読むの。」
「山ちゃん"うばぐるま"も読めないのかよ。」
「あー…、これ乳母車なんだ。」



ミミズがのたくったような字でもなぁ、こっちは必死なんだよ!真剣にやってこの結果なんだよ!


「再提出。つか、本山明日も日直な。」
「はあーなんでだよ!仕事全部やったじゃん!!つか人が本気で書いた字を小学生並って失礼極まりないだろ!!」
「ノートは眠い中書いてんのかと思って見逃してたが、あれが全力か。全力で取り組んだ結果がこれか。先生一瞬、あれ俺今日本にいるよな、って本気で悩んじまったよ。」





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全力の全力がアラビア文字



09,02,21


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