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□Challenge!
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 別棟にある一室、調理室では3年2組の生徒たちが調理実習を行っている最中だった。実習内容は、"日本の家庭料理"と言う事で各テーブルでは味噌や醤油、魚に炊きたての白米の匂いが美味しそうに部屋全体を包む。そんな中、松永は味噌汁に入れる具の下準備をしていた。
「ちょっ、松永スゴ!」
「えー?うわっ、大根の桂剥き?!」
「お前ら知らないのか?雅やんチ寿司屋だぞ」
黙々と作業を続ける松永を囲むようにしてクラスの者が集まってきた。父が板前なだけありその手捌きにみな驚きを隠せずにいた。素早く切られた大根に花形に象られた人参、食べやすい大きさのネギを沸騰した湯に入れ、味噌を溶かしながら入れる段取りの速さに他班よりも美味しそうに見えた。

 そんな事があったのが先週の話。今週の家庭科は調理と打って変わって裁縫。先日の事もありクラスの者は、松永が次は何をしてくれるのかと期待を胸に北欧伝統モチーフの簡単クロス・ステッチに挑戦すると言う事で授業が始まった。そして、始まってそうそう1人の男子生徒が声を上げた。
「先生ー糸が絡まって取れなくなった〜!」
あらあらと先生もその生徒の下へ向かって行った。

「松永君、制服と一緒に編んでない?」
隣りの席で作業をしていた女子生徒が松永を制止させ途中まで編んでいた糸を解いてやり、始めから縫い直すように言った。松永もわりい、と返すと作業に戻った。その刹那、松永の前に向かい合う様に座っていた男子生徒が突然動きを止めた彼を不信に思い視線を上げると、鮮やかな色に染まった布を掴んだまま制止しているクラスメイトに絶叫した。
「今度はどうしたの!?」
「せんせー!松永の指がケンシロウのようです!!」
「やだ、ちょっと!何したの?!」
先生は、清潔なタオルを素早く持ってくると止めど無く溢れる赤を押さえ付け心臓より高く上げて待ってなさい、今保健の先生連れて来るから!と急いで被服室を飛び出して行った。



イタッ、うわ、ぶっすり刺した!



「裁縫針で此処まで出血多量にさせた子初めてよ?」
「俺は裁縫の度っすよ。」





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雅也が板前屋の息子だったら…


09,02,02


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