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□Challenge!
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一面桜色に染めていたソメイヨシノも、今では緑に染まりつつある5月上旬。春季県大会が今年も全国で行われている中、此処埼玉でも例年通り各球場で試合が行われていた。



(今年の初戦は市営大宮か…)



去年は何処だったかと記憶を辿る。何試合とやってきても忘れない記憶。相手校にその時の勝敗、試合会場など驚く位忘れないものであった。
特に自分のミスや好プレーは鮮明に記憶に残る。

試合は勝ったけど、6回に受けた死球のせいで途中降板したんだよな、と当時の苦々しい記憶に顔をしかめる。そして、島崎の顔をさらに歪める原因がまた一つ。



「慎ちゃん!」
「何コソコソしてんだよ髭…」
「部員撒くのに労力使ってさー」



豪快に笑ってみせた腐れ縁の柴に対して溜息しか出てこない。



(恐らく来るだろう事は予測出来たが…。マジで来るとは)



市営大宮球場の隣りにある県営大宮球場で市立春日部が同日試合があることは前もって分かっていたが、疎らにだが、集まっている他校の集団の中に単独で乗り込みに来た柴に対して好奇の目が向けられるのも予想の範囲内であった。
桐青の青ラインの入ったユニフォームの中に、紫刺繍のしかも強豪の主将が紛れ込んでいる光景は異質以外の何者でもない。

後輩達、特に新入したばかりの一年生は突然の強豪選手の出現に歓喜する者、動揺する者と様々な反応が見て取れたるが、相も変わらず喋り続ける柴の態度に強者の貫録すら感じた。



「隣りは試合終わったのかよ?」
「おー、コールドで俺らの勝ち。んで、グラ整終わるまでのひと時の間に慎ちゃん見ておきたくて来た」
「そんな時だからこそ部員まとめとけよ」



毎回何かと会いに来る柴に対する呆れの気持ちよりも、必死の形相で迎えに来る春日部の部員達を不憫に感じる気持ちの方が大きかった。



「柴先輩居たー!」
「見つかったぞー!」

「今回見つけるの早くね?」
「行動パターンが読まれてきてんだよタコ」



俺の前で深々とお辞儀し、ご迷惑お掛けしましたと謝る春日部の部員が柴を回収しに来た。



「柴!…お前今回何て言って抜け出した?」





生理痛なので早退します!イヤン馬鹿じろじろ見てんじゃねぇ殺すぞ!!








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