text
□Challenge!
11ページ/53ページ
何年かに1度ある校舎の補正作業。それが、今年はたまたま寮だった。
必然的に追い出されるのが寮で寝泊りしている生徒、教師、そして俺達コーチ組。
学校の都合など知らないが、追い出されてしまったなら仕方ない。学校から程近い所で借りたアパートへ向かう。
「…っと、此で大丈夫だろ」
久し振りに帰った部屋は散らかってはいないものの埃臭い。寮で洗って来れなかった洗濯物を近くのコインランドリーに突っ込み、洗い終わるまでの時間に掃除機を掛け、暫く必要になる食材を買い込みに出掛けようと思った刹那、呼び鈴がなった。
(…勧誘か?)
ここ最近多い新聞の勧誘か、もしくは受信料の要求か。…どちらにしても、大体が自分を見たら逃げ出すから関係無いのだが、今回の奴は短気なのか先程から呼び鈴をウザいほど鳴らしている。
「勧誘ならおことわ、……ほー、男前度が上がったんじゃねえか」
そう言って開けた扉の向こうには、左頬に鮮やかな紅色の紅葉を携えた島崎がしかめっ面で立っていた。
(つか、何で俺がアパートに戻ってるのをコイツは知ってんだよ)
そんな疑問など素知らぬ顔で、ズカズカと部屋に入り込んで来た島崎。
おい、と声を掛けても返事がない。
面倒臭い上にどうでも良いと思った呂佳は、財布と携帯だけ持つと、部屋番してろ、と一言残し買い出しに向かった。
買い出しから戻ると、壁に寄り掛かってテレビを見ている島崎がいた。その左頬に氷を抑えて。
「テレビにガン垂れるな」
今、呂佳の存在に気付いたかのように首を捻ると、来た時と同じ顔のまま、呂佳を睨み付けるかの様に下から視線を向けられた。
「色恋沙汰なら他あたれ」
平手打ち食らう位だから、相当酷いフり方でもしたのだろうと勝手に解釈し、買って来た食材を冷蔵庫にしまおうと踵を返した瞬間後ろから声が発せられた。
「恋愛事情のがまだましっすよ」
予想が外れた事対しては何とも思わないが、未だに腫れている頬を殴った相手には興味が湧いた。
今晩の食事に必要なだけの食材を残し、冷蔵庫を閉めると視線だけ島崎に向けて話の続きを促した。
心霊体験マジ・コワイ
「おかしいでしょ!?幽霊駄目なら怪奇番組見んなって感じですよね?」
テーブル上の鍋を挟んで先程から熱弁する島崎に嫌気がさして来た。殴った相手は何やら兄らしい。殴られた理由が何とも下らない。
「居間で一緒に観ようって言ったのはあっちっすよ?なのに最後まで見ちまったって、逆ギレも良いとこだっつの!」
怒りまかせにガツガツと鍋のものを食べて行く島崎に遠慮なんてものは無い。切れた口内を痛いいたい、と言いながら鍋の中身はどんどんと無くなっていく。
(…癖で量多めに作っちまったから丁度良いがな)
「聞いてますか、呂佳さん!?」
「へいへい。」
「マジ心霊体験より実兄にガチで殺されそうになった方が恐怖っすよ!」
▲