薄桜鬼T

□桜色のおまえ
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お前には桜がよく似合う、いつもそう思っていた。


辛い状況に身を置かれているのに絶やすことのない眩しい笑顔、
お人よしすぎるほどの優しさ、

そんなお前は桜がよく似合っている。
俺は全てを愛しく感じ、自然と頬が緩んでいた。



「土方さん、お茶いかがですか?」
「あぁ、そこに置いといてくれ。」


いつの間にか、千鶴は俺の部屋に入っていていつもと変わらぬ笑顔でお茶を置いた。
その笑顔を他の男にも見せてると思うと無性に腹が立った。


「千鶴、」
「何ですか?土方さん。」


俺は自分でも気づかないうちに千鶴、と名前を呼んでいた。
とくに用事もなかった。

そんな自分が自分じゃないようでおかしくなって少し笑えた。
千鶴はそんな俺を不思議そうに見つめていた。


「いや、なんでもねぇよ。それより今日夜俺の部屋へ来い。」
「え、夜・・・ですか?」
「あぁ、斎藤たちにはバレねぇように来い。」
「わ、わかりました。」


千鶴は軽く会釈をして部屋を出て行った。
そのとき少し顔が赤かったことには土方も気づいていただろう。
土方は嬉しそうに笑ってまた書類をまとめ始めた。




その夜、千鶴は約束どおり誰にもバレないように土方の部屋を訪れた。
少しビクついている。


「・・・なんでそんな怯えてんだ?」
「そ、そんなことないです!」
「・・・くくっ。」


千鶴が怯えてる理由を知っててわざとそう聞いた土方はおかしそうに笑った。
その反応で初めてからかわれていると気づいた千鶴はむぅと頬を膨らませて拗ねた。

そんな千鶴も可愛いなと思ってニヤけた土方は自分の頬をつねって冷静を装う。


「んな怯えなくても無理やり抱いたりなんてしねぇ。」
「べ、別にそんな心配してません!」
「そうか?それならいいが。」



明らかに動揺してる姿を土方はおかしそうに見ていたが、また千鶴が拗ねると困るのでからかうのはやめた。

土方はそっと戸を開け縁側に立つ。
千鶴もその後に続いて、土方の隣に立つ。


するとそこに広がる風景に息をのんだ。



「き、れい・・・。」
「今日はちょうど満月だからな、いつもより桜が綺麗だろ?」
「はい!」


美しく光り輝く満月に桜はよく映えていた。
夜桜とはこんなにも綺麗なものだったのかと千鶴は嬉しそうに眺めていた。


「土方さん、ありがとうございます。こんな綺麗な桜を見せてくださって。」
「あぁ、別にたいしたことじゃねぇから気にすんじゃねぇぞ。」
「たいしたことですよ?私なんかに見せる為にわざわざ部屋に呼んでくださって。」


千鶴はいつになく真剣な顔でそう言った。


「・・・私なんかって言うのはやめろ。お前はもう俺達にとって大切な存在になってんだ。自分のことをそんな風に言うんじゃねぇよ。」
「・・・!」



千鶴はぽろと涙をこぼしていた、しかし表情は眩しいほどの笑顔だった。
彼女は嬉しいと呟き、土方の方を見てありがとうございますと言った。


その笑顔を見て、やっぱり千鶴には桜が似合うと土方は思った。




(お前にはやっぱり桜が似合う。)





End.
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