薄桜鬼T

□桜のじゅうたん
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どうしてでしょうか。
夫婦になったというのに一さんは私に一切触れようとしません。


私の不安は募るばかり。


「一さん、今日も帰りは遅いのですか?」
「あぁ・・・体に障るから先に寝ていて構わない。」
「・・・はい、分かりました。気をつけてくださいね。」
「行って来る。」


いつもと同じ会話、返事。

もっともっと私は一緒にいたいのに、
もっともっと話がしたいのに、
もっともっと・・・触れて欲しいのに。


でも一さんと夫婦になれただけでも幸せなことだから・・・と私は望みを言わないでいる。

だって、一さんに迷惑をかけたくないから。
彼は遅くまで頑張っているのに私のわがままで疲れさせたくない。

そう、だから私は良い嫁を演じる。


たぶん、これからもずっと。

そんなことを思っていたら、数日後一さんから思わぬ誘いを受けた。




「千鶴、明日空いているか?」


朝、一さんは突然そう口にした。


「え?明日・・・ですか。」
「何か用事でもあるのか?」
「い、いえ何もありませんが・・・どうしたんですか?」
「それは行けばわかる。だから明日は空けておいてくれ。」
「分かりました。」



どうしたんだろう・・・。
一さんからこういう誘いをしてくれたことが初めてだからすごく嬉しいけど・・・。

そんなことを考えていても埒が明かないし・・・私は考えるのを止めてお昼ごはんを作り始めた。




「千鶴、仕度は出来たか・・・?」
「あ、はい!出来ました!」
「そうか、それでは行くぞ。」
「はい!」



どこに行くんだろう?
一さんもいつもより軽装だし、私にも軽装にしろって・・・。

軽装ってところからいつもより遠めの場所に行くのかな。
私が上を見て考えこんでいると、一さんが手を握ってきた。


手を握られたのは初めてのことだったし突然だったからすごい驚いた。
すぐに一さんの方を見ると、一さんは真っ赤になって私と反対側を見ていた。


そんな一さんが可愛く見えて、私は自然と笑顔になった。




しばらく歩いて着いた先は、桜の花びらが一面に広がるまるでお花畑のような場所だった。
綺麗に散る花びらは次々と地面に落ちて桜色の絨毯を作っていく。
声が出ないほど、美しかった。



「ここ・・・。」
「・・・有名な華妖桜だ。毎年この時期になると花びらが散って絨毯のようになると、近所の方に聞いた・・・。」
「私に見せる為にわざわざ・・・?」
「・・・あぁ。」



どうしよう、すごく嬉しい。
一さんが私のためにわざわざ連れてきてくれたのがすごく嬉しい。


「一さん、私嬉しいです・・・。今日手を握ってくれたことも含めて・・・本当に有難うございます。」
「礼を言うのは俺のほうだ。俺の妻になってくれてありがとう。」


一さんは優しく笑みを浮かべた。
その笑みは私を優しく包み込んでくれた。


そして一さんはそっと私に口付けてくれた。
初めての口付けは甘くて、なんだか恥ずかしかった。


でも一さんが私に触れてくれたのがとても嬉しい。
私は世界一幸せかもしれない、そう自惚れそうなほど。



(世界一幸せです、一さん。)




End.
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