薄桜鬼V

□片方ずつの意味
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冬休み前日、一緒に帰る約束をしていた山崎と千鶴。
千鶴は校門前でそわそわしながら待っていた。


というのも、山崎へのプレゼントである手編みの手袋を渡すのに緊張しているからだ。
薄緑色の手袋は可愛らしいラッピングを施され、千鶴の鞄の中に入れてある。

自分の分も編む予定だったのだが予想以上に時間が掛かり間に合わなかった。
その為に寒い中、ホッカイロだけで手を何とか温め山崎を待っていた。



「千鶴!」
「あ、烝さん!」


千鶴が暫く待っていると遠くから山崎の声がした。
そちらを向くと山崎が千鶴の方へ向かって走ってきた。

はく息が白く、鼻の頭も赤い。
今気温がどれくらい低いのか、なんとなく予想がつきそうだ。



「待たせてすまなかった。・・・こんな寒い中手袋もつけずに待っていたのか。」
「わ、忘れちゃって・・・。」
「そうか・・・。次は忘れないように気をつけてくれ?」


心配そうに千鶴を見つめながら山崎は千鶴の手を両手で包み込む。
そして自分の口元に持っていき、はあと息をかけて温めてくれた。



(山崎さんも手冷えてるはずなのに・・・。)




「あの、私手袋編んだんです。良かったら、受け取ってくれますか・・・?」


手袋のことを思い出した千鶴は、山崎にそう聞いた。
山崎は優しく笑って、当たり前だと言った。
千鶴は山崎の言葉に安心して笑った。




「はい、どうぞ。」
「開けても構わないか?」
「あ、はい!」


気に入ってもらえるかドキドキしながら、袋を開けて手袋を取りだす山崎を見つめる。
手袋を出してそれをじっと見つめて、何か考え込む山崎。

もしかして気に入らなかったのか、そう不安になる千鶴だが山崎はありがとうと、微笑む。
そして手袋を右手につけて、もう片方の手袋を千鶴に渡す。


「え?」
「左手につけてくれ。」
「は、はいっ。」


何を考えてそう言ったのか分からない千鶴だが言われた通りに左手につける。
すると、山崎が手袋をつけていない方の手、左手を差し出してきた。


それでやっと意味が分かった千鶴。



「手袋をつけたら、千鶴の温もりを直に感じることができないからな。」
「・・・嬉しいです、烝さん。」





(手を繋いだ時の幸せを、)
絶対に忘れることはないでしょう。








End.
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