スレイヤーズ 書庫

□Devil In Autumn
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それは劇的な出逢いではなかったし
すれ違いざまに振り返った顔が知らない顔だった、なんてよくあることだ。

懐かしさはいつだって僅かの寂しさをはらんでいる。
ノスタルジックな光景、セピア色のあの衣装。

胸の中で思い出がやたらに暴れ出す季節。
黄色や赤の木の葉ははらはらと落ちていくばかり。
皆が感傷的な想いを抱いて街を歩いてる。

そんな古くさい映画のワンシーンで裏道の角を曲がると
脚本通りにあたし達は目線を合わせる。

だけどあたしは何も手に持ってない。

コートのポケットに入れた手は空を掴むけど
貴方に拾ってもらう術を持っていない。

影と影が交差する。

頭がガンガンして心臓がうるさい。


貴方は私を知らないのですか。

私も貴方を知りません。
何と呼べばいいのか分かりません。

だけど‥




その唇の感触を覚えています。
優しくはなかったけど最初で最後の夜のこともこの体に刻まれています。





この道を抜ければきっと夢は覚める。

5メートル先の日常。
あそこまで行けば人ごみに紛れてあたしもその一部になる。
あと少し。





あたしは振り向いてしまった。

同じように振り返った貴方は笑って

お互いの名前も知らないあたし達に交わす言葉などなく

あたしはすがりついた彼の肩の硬い感触がいつまでも信じられないでいた。


彼が耳元で囁いた言葉は信じられないぐらい陳腐で

文句を言おうとしたあたしの唇を覆うように彼はあたしにキスをした。





“また、会えた。”

思い出が戻らないように
過ぎてしまった出来事があたしの胸を辛くする。

だからなんだろうか。
貴方と再び、こうして出逢えたことがたまらなく悲しくて苦しい。


ねえ‥


この出逢いに終わりはないのでしょうか。





(fin…)
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