BLEACH部屋

□菊花咲乱
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気づけばギンの胸元は涙でぐしゃぐしゃになっていた。
泣き腫らした顔で何か言いかけると、ギンは眼を細めてまた乱菊を引き寄せる。
そんなことを繰り返した。



離さないで



心中の声が聞こえたんだろうか。

一体どうやったのか知らないけれど、今こうしてここに居てくれるギンの存在に感謝した。

この先何があろうと今日の記憶を温めてあたしは生きていける。

遊女の死に様なんて、悲惨という言葉では言い表せないほど哀れなものだ。
生きている間は畜生同然に扱われ、死んだ後にはもうひどく疎まれる。
墓には名前も残らない。

最初から根のない花なのだ。
自分が人であることを感じられる時間は、短い。



いつの間にか月が空を横切り
格子窓から見える景色が白み始める頃


ギンは不器用に乱菊を抱いた。


しない訳にはいかなかった。
初身世の翌日には店の人間が床を確かめに来る。
破瓜の跡が残っていなければ全て始めからやり直しとなる。


ぎこちない手つきが乱菊には好ましかった。
馴れた男の指で、いずことも知れない方へ心が流されていくのは嫌だったから。

‥抜かりない彼のことだ、わざわざそんな風に振る舞っていたのかも知れない。
それでも嬉しかった。



切り裂かれる痛みにも乱菊はギンの肩にしがみついて耐えた。
弱った猫のような悲鳴が漏れてしまった時だけ、

「ご免な。」

そう言ってギンは本当にすまなそうな顔をしていた。


きゅうきゅうと抱き合った隙間から流れ落ちていくものを感じると、やり遂げたような終わらせてしまったような忽然とした虚無感に襲われて全身の力が抜けた。


「乱菊?」


腕の中でぼんやり見上げている眼差しが恐ろしかったのか、手の甲で頬を叩かれた。
くすくすと笑い始めたあたしを慌てて揺さぶるギンの顔がまた可笑しかった。


「まだ狂っちゃいないわ、大丈夫。」


腕を掴んでいる指を一本、一本振りほどくと布団の上に転がった。


笑顔

あと少しこの笑い顔を保つんだ。もうすぐあたし達は他人に戻るんだから。

笑うは仮面。
それを昔ギンを見ていて学んだことだった。

ギンが変な眼で見ている。
今の自分は果たして遊女に見えているんだろうか?



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