スレイヤーズ 書庫

□赤と黒
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「“お前の好きなようにすればいい"って。“俺がついて行ってやるから"って。」

「彼はあたしに何も要求しなかった。それなのにこんな時代、戦場の中であたしに自由をくれた。」

「‥代償に彼のことを愛すると?」


するとリナが微かに笑った。
それはゼロスが期待した表情ではない。


「分からない。
彼はあたしの“保護者"だそうよ。」



不意にゼロスの脳裏に幻が浮かぶ。
広い大地の上を何処までも続く道を行く二つの影。
一人は長い髪をなびかせて歩くリナの今と変わらぬ姿。
そして当たり前のように隣を占めているのは青い眼の屈託なく笑う長身の男。

彼女はいつか、きっと彼を愛するようになるだろう。
いつか必ず。


それは強い確信にも似た感覚だった。




「傭兵団を渡り歩くつもりですか?」

「そうね。今は他に仕事がないから。」

「ではいずれにせよ僕の主がこの国の統一を目指している以上、隊から出ていく貴方がたとは‥」

「次に会う時はお互いに敵同士、ね。」


暮れようとする夕日が最後の一瞥を投げかける。

きらりきらりとタリスマンが数回瞬いて、やがて光は奥へと沈み込んでいった。


「出来ればもう二度と会わないことを祈りますよ、リナさん。」

「もしもなんてことは言わない方がいいのかしらね。」

すると彼は笑って

「その時は僕自身を抑えられるか自信がもてませんからね。」


少女は眼差しだけで答えながら、ゆっくりと手を掲げた。

それを見つめていたゼロスは儀式張った会釈を返すと、そのまま背を向けて去っていった。


後には彼女が一人で残された。









その日の夜

ゼロスの先手を打って抜け出したリナ達を逃したという報告が追っ手の兵士達から彼の元に届く。

灯かりの下で羊皮紙を伸ばすと、末尾にはこう記されていた。

彼女は何も持ち出さなかった。
ひと振りの剣と、いつも身につけていたタリスマン以外は。








(fin…)
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