スレイヤーズ 書庫

□無題
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両手を握りしめて眼前に立つリナを開いた目で見つめる。
いつの間にか随分と大人になった。
ついこの間まで少女のようだった彼女が。

やりどころを無くした手が先程の柔らかい感触を求めてうずうずしているのが分かった。

この手がまだ届く内に

彼女をこちら側に引き寄せる?
それともいっそ引き裂いてしまう?

ああだけどもう遅い。




「‥夜明けよ。」

寒々とした廃墟群を朝焼けの光が照らし出す。

夢は日の出と共に消え去るものだと決まっている。

リナがかざしていた手のひらを下ろすと、ゼロスがいつもの笑顔を浮かべていた。少し悲しそうに。


「これは貴方と僕の夢です。他の誰も知らない。」

「最初あなたは僕にとってはただの夢でした。」


「それってどういう意味よ?‥ゼロス?」


朝の強い光の中で次第にぼやけていく彼の姿。


「それが今や寝ても覚めても同じ夢を見ている始末です。」


「ゼロス!」


彼だけではない。
今や辺りの建物や地面が一同に揺らぎ始めているのが分かった。

「目を閉じて。
もう時間です。」

そう言って冷たい指がリナの瞼に押しあてられた。

「また会えるのよね?
そう言ったわよね?」

彼に言われた通り瞳を閉ざしながらも、必死に食い下がろうとする彼女を見て微笑む。

霞んでいく景色。
強い光。


「僕は変わりません。
変わるのは貴方です。」






「‥っ嘘つき!!!」





白い光。




枕元のタリスマンをひっ掴んで握りしめる。

俯せて顔を押し付けたシーツに涙が染み込んでいった。


やがて頭の後ろに触れた手を感じて振り向くと

ガウリイが心配そうな顔で立っていて

あたしは何でもない、とそう繰り返した。

胸にあてた石の感触を確かめながら。

夢を打ち消す現実の打撃を待ち続けていた。














(fin…)
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