スレイヤーズ 書庫

□tear
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あの時

嗚咽するリナを前にして伸ばそうとした手を何かが引き留めた。
冗談のような慰めのようないつもの軽口が喉元まで上ってきたが、言葉は出てこなかった。

目の前で泣いている少女はただの人間だ。
そもそもの始まりは冥王に課せられた彼女を守り導くという任務だった。
リナがガイドであるゼロスの力をある程度頼るようになったのは自然な成り行きだろう。
それでも頭のいい彼女は決して心を許そうとはしなかったけれど。

妙な気分だった。

目の前の命は消そうと思えばいとも簡単に握りつぶすことが出来る。
だが彼女が、非力な人間であるが故にロード・オブ・ナイトメアの力を呼び出して用いることが出来るのだ。
世の中とはおかしな風に出来ている。

面倒な仕事の筈だった。
彼ら魔族の究極の望みが1人の『人間』の手で成されるなど。こんな馬鹿げたことはない。まったくため息が出る話だと思った。

彼女の細い腕が支えるちっぽけな手のひら。
その手で闇を握り締め、闇を薙いできた。



『生きてる?ゼロス』


屈辱を感じても良かっただろう。
けれど苦笑を浮かべながら戯れ言を言うと貴方は笑ってくれる。




貴方の頬を伝う涙はあとからあとから溢れて

流れ落ちる涙と共に心の奥底に芽生えた何か。

知っていたんだと思う。
この想いが胸を締め付けていつかは息の根を止めるだろうということも。

それでも危険な種が育っていくのをただ黙って、見つめていた。

まるで誰かを愛するように。

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