スレイヤーズ 書庫
□tear
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母さんは10年前に雪崩に巻き込まれて死んだわ。
隣で黙ったままのゼロスをレイナは気まずそうに見やる。
「急なことだったから‥呪文を唱える暇もなくて」
「だけど父さんは最後まで母さんを守ろうとしたって、見ていた人が言ってたわ。」
「そう、ですか。」
前髪に隠れて目の表情は伺えない。
けれど少なくともその口元は笑ってなどいなかった。
「レイナさん、貴方に出会えて良かったですよ。」
「ねえ、貴方もしかして‥」
「レイナーーー!」
反射的に声がした方を振り向くと、長い金髪をなびかせた少年がこちらに向かって走っていた。
「兄ちゃん!今まで何してたのよもー。」
そして横を振り向くと神官の姿はもう何処にもなかった。
「すまん、ちょっと道に迷ってな〜。
レイナ?」
荒い息をつく兄の前で考え込むように俯いた彼女は遠い記憶に思いを馳せていた。
「ねえ兄ちゃん。あの人って母さんの『懐かしいヤツ』だったのかな‥。」
「だとしたら魔族、だったってことよね。」
「なんだそれ、食えるのか?」
「クラゲの子はくらげぇええ!!!」
怒るレイナを尻目に兄は異常な視力ではるか遠くにある宿屋を見つけていた。
「おっ。よーしレイナ、あの宿まで競走だ!飯は早いもん勝ちだぞー。」
言って走り出した後ろ姿を見つめながらレイナは深く息を吸い込む。
そうして胸につかえる母の思い出の欠片を飲み下した。
「待てー!このキクラゲ兄貴ーーー‥」
草原にしばし2人の声がこだましていた。