映画タイトルで30の御題

□22.俺たちに明日はない
1ページ/2ページ

アメリカン・スピリッツを吸う背を、ぼんやり横で見上げながら。
「お前さぁ、今付き合ってる女、いないのか?」
侘助は理一に尋ねた。
陣内家の中でも随一の美丈夫。防衛大学校発幹候経由のエリート士官。
本家筋の嫡男として、栄の孫息子として誠に相応しい逸材と巷でも評判の『甥』
「来年はお前も30だろ?さっさと結婚前提のオンナ、連れてこねぇと年寄りどもがうるせぇぞ。
…ババァもいつまで生きてるかわかんねーし」
「………いないよ、そんなの」
何時も通り、穏やかな声の筈なのに、侘助はびくっとした。
冷静で温厚な甥から不意に放出された、
ドライアイスのような冷たい怒りを肌ごしに感知して。
「俺は誰とも結婚しないよ。
……多分、一生」
「あぁ?」
怪訝な顔をする『叔父』を覗きこんで、理一は微笑んだ。
「やっぱり知らなかったか。俺、お前の事好きなんだ」
十数年越しの告白は、ひどくあっさりと二人の狭間に落ちた。
たじろいで、咄嗟に自分から離れようとした情人の細身を理一はベッドに繋ぎ止める。
「多分、初恋、だと思う」
「よせ理一、今なら冗談で済ませてやるから」
「自覚したのは中坊だな。
風呂上がりのお前のうなじに欲情して、自分のセクシュアリティをはっきり認識した時だと思う」
構わず淡々と告白を続ける理一に、侘助はどんどん青ざめていく。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ