poem

□慢性的日常病
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【慢性的日常病】



毎日目を開けた時に見える景色には、ありきたりという感慨すら抱けない。
束の間の非日常を奪う目覚まし時計は、日毎遠くに聴こえていく。
惰性的に手繰り寄せた衣服は当然のように熱を持たないから、着飾る意味すら離れていった。
世界の情勢を映す液晶では、ふんぞり返ったお偉方が世界平和を説いている。
回した先のニュースでは人が死んでいた。
相も変わらず世界は乱れ、昼も夜もなく活動する人々の変動が、一体自分の人生の何パーセントに影響するのかを考えたら馬鹿馬鹿しい。
一歩外に出れば、忙しない流動の中に投げ出される。
同じ方向を目指す個体の中に、明日死ぬ奴が何人いるのだろう。
ヤリガイなんてものとは無縁の世界で、趣味と言えば顔色窺い。
舌先三寸の鞭撻をサラリと飲み込めば本日のノルマは達成です。
愛着もない生活空間に帰って来たとて何かが劇的に変化するわけでもなく、ただ少し加わった空腹感。
満たすものは何かと探して、冷蔵庫の中に冷めた夢を見つけた。
腹を満たせないと知ってるから手は付けず、また少しそれは腐っていく。
熱を求めたくせに脱ぎ捨てた衣服が、三十秒だけ生きた証を持つ。
シャワーを浴びたら汚れと一緒に今日が流れた。
冷えたベッドに潜り込むと、一瞬の安堵と夢を視る恐怖の混ざる快楽が身を包む。
全て投げ出してしまえたらと、理想にも満たない幻聴に逡巡し、暁光の遠さに絶望した。
予定のないカレンダーに×印を付けた10分前と、10年前に読んだ夢見る少女の物語が僅かに交錯したから、いつもの目覚まし時計を1分だけ遅くセットする。
眠気なんて本当は少しもなくて。
カレンダーの明日の予定に『幸せ』と書いたのは、ありきたりな日常に嫌気が差したためか夢見る少女の結末を思い出したためか。
私の物語はまだ動き出さないまま。
目を閉じる。
そして今日もまた一人、無駄な私が息絶えた。


 

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