poem

□煩い独りのティーパーティー
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【煩い独りのティーパーティー】



レースをあしらったティーポットに、角砂糖の載ったソーサー、銀色に輝くティースプーン、そして無色透明のティーカップ。
ポットから滴った最後の雫は、芳醇なドロップか琥珀の毒か、それとも退屈な液体か。
疑いなくカップを傾けた私はティールームの鍵ごとその罠を飲み込んだ。
溶け出したルージュが琥珀に混ざり、縁をなぞる舌先は無意識に刺激を求める。
顔を上げて見た景色があまりに閉鎖的だったから、私は途端に歓喜を覚えた。
上を見れば白、下を見れば黒、四方を見渡した瞬間に飛び込んだ色の名前を忘れたから、もう時間は進まない。
冷めた紅茶に口を付けて、また琥珀に紅を差す。
壁掛時計はにんまり笑って、背後のドアは泣き虫のまま譫言を繰り返す。
カラリと音を立ててポットに落ちて来た、ワインレッドのマニキュアは出口を知らない。
毒色に染まった紅茶を一気に流し込んだら、冷めた液体で火傷をした。
残ったのはルージュの溶けたティーカップ。
ティーテーブルはカタカタと笑い、「愉快だ」とスプーンが踊り出す。
爪先を舐めたものの正体は未確認のまま。
ガラスに向けてキスをして、薄目を開けた先に映った熱を帯びた目が扇情的だったから、私は私に恋をした。
静かに静かに立ち上がって、呼吸をすれば鍵が疼く。
唇をなぞりルージュで汚れた指が、まるで血が滲んだようで酷く退屈だと思った。
不意にドアが口を噤む。
時計は音を無くす。
サラリと崩れた角砂糖。
溢れた静寂を愛せるかと、問い掛けたガラスの私は贖罪のように笑っていた。


 

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