poem

□銃口を見つめて
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【銃口を見つめて】



「こうなったら、どうする?」と突き付けられた拳銃を見て笑った。
どうするだって?下らない問いに答える気力も失せながら「心配いらない。その引き金を引く前に、貴方が助けてくれるから」と吐き捨てた。
指に絡んだ弦は気紛れに締まる。
人差し指を捻切って、貴方から武器を奪う。
ああ残念だと知らない振りして笑う貴方を、容易に想像出来るから私もそろそろ愛に囚われている。
鼻孔の奥でする生の薫りが息苦しさを煽る。
熱に冒されたように脈打つ喉元は、生きろと急かして、反抗期の私を殺そうと画策する。
焦れったくて仕方がないから、貴方を挑発したりした。
向けられた銃口は命のような熱を持ち、指先を通じて貴方の中へと流れ込んだ汚い執着がその口元を三日月の形に歪ませる。
「愛おしい」と鼻で笑い合った二人を「愚かしい」と非難した神様は、武器すら持たない故に己を殺せない出来損ないだから何だか堪らなく「愛おしい」。
貴方の瞳の奥の奥の更に奥の方に見付けた小さな黒い塊を、これは愛だと叫ぶ幼い私の声がする。
他の誰を信じるわけでもないから、適当にそれを拾い上げた帰り道でいつの間にか夜に堕ちていた。
光をあげようかと微笑むさっきの神様に、慎んで遠慮を申し上げて歩き出すと今度は貴方が言った。
「大きく息を吸ってごらん」。
真っ黒い空気をいっぱい吸い込むと、自分に流れる血の匂いがして途端にむしゃむしゃした。
未だに拳銃を突き付ける貴方は雑念だらけの脳を愛おしげに愛撫する。
憤怒、色欲、嫉妬、強欲、暴食、怠惰、傲慢、たかだか七つの罪じゃ人間様を語れない、知ってるのは私と貴方とこれら罪。
指先から銃口を通じて私に流れ込む貴方の愛情の中に、少しの殺意も感じられないから私の感情は昂らない。
退屈な程意味のない、それを愛と呼んだ最初の人は余程の馬鹿か稀代の天才。
痺れた両脚の代わりに命で立って。
生とか熱とかそういう生命臭いものを全身で受け止める私はいよいよ愛に酔っている。
気紛れな弦は億劫そうに喉元に巻き付いて、物理的に心臓の活動を止めようとした。
全ての音がなくなったら、またここで会おう。
眼球という映写機越しに視た世界の景色は、結局震えながら拳銃を構えて泣いている貴方を求めただけだった。


 

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