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□旅行
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「長谷川さん、13日って空いてる?」
「え、ああうん。空いてるよ。」
「じゃー旅行いこう。温泉旅行」
「旅行!?」
「俺からの誕生日プレゼント……たまにはちょっと遠出…しよう?」
「銀さん……ありがと」
「…おぅ!」

銀さんから”おめでとう”と一言もらえたらそれで充分。
あとは何もいらないって思ってる。
だから、この話を聞いた時とても嬉しくて思いっきり彼を抱きしめた。

たった二人きりで過ごせる特別な時間を彼からもらえたこと。
それだけで、それを考えただけでも幸せだから。

彼が選んだ場所は、鉄道を2度程乗り換える程の距離。
久しぶりの電車に浮かれ車内で二人で一缶丁度飲み終える頃、目的地に到着。

見頃を迎えた色とりどりの紫陽花にはしゃぎ、有名な寺院でお参り、お昼には蕎麦屋で一杯やって仲見世で土産買って、甘味処で葛きり食べて…漸く、宿に着く。

「本日のお宿到着ーー!!」
「おお…こりゃまた随分立派な…」
「ちょっと奮発しちゃったけど、疲れを癒すのが目的だからな」
「銀さん……そうだね!ゆっくり休もうか」
「荷物置いたら、さっそくひとっ風呂行こうぜ!!露天もあるみたいだから」
「ちょっと一休みしてからねー」
「しょーがねーなー長谷川さんは」

部屋で一息入れた後、待ちかねた温泉へ向かった。
少し高台に建てられた露天温泉からの眺望はまさに絶景で。
青々とした山間の木々が夕日の橙に染まり、もう間もなく日が沈もうとしている。
何を話すでもなく二人景色をぼんやり見つめていた。
お互いに口を開くことはく黙ったまま。
ふと視線を戻せば、肌を少し赤く染め息をつく彼に暫く魅入っていた。
少し冷たい風が頬をかすめる。
こういう瞬間がとても落ち着いて好きだ。
会話をしている時以上にお互いの気持ちが繋がれている気分になる。
こちらが一方的に感じているだけかもしれないが……。



部屋に戻れば食事の用意ができていて。
ゆっくり二人で食べられるからと、気を効かせてくれた彼にまた感謝した。

「ほら、早く座れって!今日は飲んでばっかりだったけど…今日は特別だ!飲もうぜ長谷川さん」
「そうだね。ありがとう銀さん」
「いーっていーって。…んじゃ、長谷川さん、改めてお誕生日おめでとう!!かんぱーい!!」
「かんぱい!!」

今日の旅での出来事、仲間の話、仕事の話…。
他愛もない話を肴に酒も進んだ頃、ふと彼がふらふらと席を立った。












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