颯爽デイズ

□かみころすひと
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「…神を、殺すんですか?」

「…何、キミ」

「…木崎陽呂です」

「名前なんてどうでもいいよ。何者で何の用があってここにいるのかを訊いてるんだけど。馬鹿」

「何でここの人間は初対面の人に向かって馬鹿馬鹿言うんですか!教育的指導!」

「煩い、咬み殺すよ」

「神でもなんでも殺せばいいじゃないですか!私人間なので関係ありません!斬新な宗教思想ならご勝手にどうぞ!」

「あははははっ!待って、だめ、陽呂ちゃん最高!面白過ぎるあははははは!!」

「怖い、ツナさんが爆笑って何だか怖い」

「あー…無理腹痛い…!…ちょっと、恭弥さんも落ち着いて。ね?この陽呂ちゃんを紹介するためにここに呼んだんだから」


至極不機嫌そうな顔をしたこの男性はどうやら恭弥さんというらしい。
和服で腕を組みこちらの睨む出で立ちは静かに怒りを表しているようでまぁ恐ろしい。
初対面の人間にまで馬鹿にされるのは何だか癪だったからちょっと反抗心を見せてみたけど怖いものは怖い。

しかも何だ。
神を殺すって何だ。

信仰の自由は私だって心得ているし否定する気もないけど、それにしたって神を殺すってどこまでアグレッシブなんだろう。

悶々と頭の中で事態を整理しようとしていたらツナさんが私の肩をぽんと叩いた。


「この子は木崎陽呂ちゃん。今日からここの雑用として働いてくれるんだ」

「異論を唱えます!」

「却下。でね、恭弥さ」

「却下を却下します!」

「…はい、もう何、陽呂ちゃん」

「すごく面倒そうな顔してますけどねツナさん、私料理人として雇われたはずです!だからここに来たのに使用人にランクダウン、挙句の果てに雑用呼ばわりなんて契約違反です、速やかに帰らせて下さい!」

「却下」

「ああもうそればっかり!」

「分かったよ、使用人だよね、陽呂ちゃんは」

「だから料理人って…」

「…つまり、料理も出来る奴隷って事かい?」

「…うわ、抜きん出た鬼畜発言」


これまで黙って私とツナさんを眺めていた恭弥さんとやらは恐ろしい言葉を恐ろしい程さらっと述べた。そしてその言葉に爽やかな笑顔で頷くツナさんも同等に恐ろしい。何この敵ばっかり。


「陽呂ちゃんはね、恭弥さんも好きなコーヒーのお店の親戚の子なんだ」

「……」


ぴく、と不機嫌そうな眉が動いたのを私は見逃さなかった。


「…ふーん」

「マスターがね、陽呂ちゃんを雇うかわりにいつでもあの店の品物タダでご馳走してくれるって」

「…え、おじさんそんな事一言も言ってなあああああああ!」


私の二の腕を力の限りぎゅうううううううと抓るツナさん。どうやら黙れという事らしい。そしてとうとう言葉の暴力だけではなく地味な身体的苛めも発生するようになってしまった。合掌。


「…それ、本当かい、綱吉」

「勿論。俺が嘘言った事ある?」

「私と出会ってからほぼ嘘しかついてませんよ」

「…コーヒーね」

「あれ、私の事見えてます?ツナさん、ねぇツナさん」

「…ま、気味の悪い色目を使ってくる女じゃなさそうだし一応認めてあげるよ」

「やったね陽呂ちゃん!リボーンと同じぐらい難関だった恭弥さんに認めてもらえたよ!」

「あ、やっとこっち向いたと思ったら何か話進んでる」


良かった良かった、と言いながら私の両手を握るツナさんが何に喜んでいるのかもう私には分からない。
非攻撃的な人間との出会いを求めていたら真逆だと言われている恭弥さんという人が来て、身構えてみれば何やらコーヒーだけで場が治まったとか。


「…私もうこの世界の攻略法が分からない」

「何頭悪い事言ってるの」

「またそうやって人を馬鹿にして…」

「馬鹿に馬鹿って言って何が悪いのさ」

「いいです、もういいです。分かり合える気がしません。きっと私が悪かったんです」

「分かればいいんだよ」

「…もうやだ何で初対面の人に厳しい変人ばっかいるのここ…!」

「変人?」

「すみません、何でもありません。そのよく分からない武器みたいなものをどうかお治め下さい」

「今度ふざけた事言ったら咬み殺すよ」

「だから勝手に神でもなんでも殺せばいいでしょうが!何なんですかさっきからそれ!信仰の自由にとやかく言うつもりありませんよ私は!」

「あははははは!!陽呂ちゃん、最高!!!」

「…だからツナさん怖いですってその笑い方」


どうやら私はここにいる以上、安らぎなど得られないらしい。









(…あれ、そういえばリボーンさんはどちらへ?)
(飽きてどっか行っちゃったね)
(用が済んだなら僕も戻るよ)



(え、あ…何この自由解散)

(いつもこんなもんだよ)







<11‐かみころすひと‐> Fin.

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