颯爽デイズ

□職場提供
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「じゃあさ…陽呂ちゃん。もし良かったらうちで働かない?」

『……はい?』

「沢田さん…?」



…何だって?
コーヒー煎れてた叔父さんもびっくりだわそりゃ。



「料理の腕磨きたいなら俺の職場はピッタリかなぁ…って思って。飲食店とかじゃないんだけどね。今丁度コックさんを探してた所なんだよ。うちには日本人の職員も多いし…和食の料理人さんが来てくれたら皆喜ぶと思うんだけど…どうかな?」

『いやいやいや…そんな今日お会いしたばかりの方にそんなご迷惑かけられませんよ…』



何だかとても良い話をくれた様子の沢田さん。…何だろう。美形=性格最悪って方程式はやはり間違いだったのだろうか。

さっきまで胡散臭く見えていた笑顔が今ではとても優しく見える。…現金な奴だな私。





「迷惑なんかじゃないよ?ここのマスターにはいつもお世話になってるし。それに…陽呂ちゃんが家で食事作ってくれるなら俺自身も嬉しいな。やっぱり日本人だからね。無性に和食が恋しくなるんだ」



はははっと笑った沢田さんは少し照れたような顔をして。
…何だかもう本当に数分前に戻って沢田さんを胡散臭いと言った自分を殴り倒したい本気でっ…!!



『さっ…沢田さァァァァん!さっきはごめんなさい!私の勘違いでしたなんというご無礼っ…どうかお許し下さい!!』

「え?!ちょ…陽呂ちゃん?どうしたのいきなり…ね?顔上げて?」

『ごめんなさい…!…あ、でもさっきのお話は本当にちょっと…流石にそこまで沢田さんにお世話になる訳にもいきませんし…』



そうだよ。

確かに料理を提供する場を貰えるなんて私には美味し過ぎる話だ。

でも…ここで頼っちゃいけない気がする。
イタリア来たばかりで直ぐに誰かの手を借りるなんてそんな…



「お言葉に甘えたら?陽呂ちゃん」

『ちょちょちょ…叔父さん今私脳内でめっちゃいい事言ってたんだけど!今の語り自立が見られて感動的な場面だったんだけど遮るかな普通!!』

「沢田さん…本当に迷惑じゃないですか?」

『わぁ素敵にスルーだよ』

「勿論!陽呂ちゃんが来てくれたら助かるな」

「そうですか…」

『や、ちょっと…あの…』

「そこまで言ってくれるなら…お願いします」

「本当ですか?良かった…うちの奴らも喜びます、きっと」

『え?何だか話進んでしまってるのでは?結構ですって私このカフェで働きますって!』



何ていう私の全力での否定は誰の耳にも届いていないようで。
そういえばさっきから叔母さんが見当たらないなーとか思って叔母さんに助けを求めようとした、ら。




「陽呂ちゃん?奥さんならさっき買い忘れがあるって言って出ていったよ」



…叔母さァァァん!!いつの間に…!!唯一の見方が…!!





「じゃあ陽呂ちゃん!困った事があったら僕に電話するんだよ?沢田さんにあまり迷惑かけないようにね!!」

『…えぇぇぇぇぇ??!!何かもう話ついちゃった感じじゃね!?』

「うんついちゃった!」

『ついちゃった!じゃねぇよ勝手に何してくれてんだアンタァァァ!!』

「陽呂ちゃん大丈夫だよ。俺の職場ここから近いし。いつでも叔父さんと叔母さんに会えるから。って事で行こうか!」



そう爽やかに言い切って私のスーツケースをガラガラと引いていく沢田さん。




「ほら陽呂ちゃん!沢田さんに着いていかないと!」

『なっ…そんな勝手に…!!』

「大丈夫、沢田さんとても良い方だから!はい行ってらっしゃい!!」

『叔父さっ…だあァァァ!もうアンタ絶対覚えてろよ!店の前にゴミ捨ててやるからな!!』

「あははは!返り討ちにしてあげるよ!!」

『………』




…やはり数年ぶりにあった叔父さんの黒いオーラは気のせいではなかったと1人肩を落とす。


店を出た沢田さんはスーツケースを引いたまま少し離れたところに止めてある車に向かっているようだった。

どうする事も出来ない私は取り敢えず沢田さんを追いかける事にした。



…何でこんな事になってんだ私。
どうしてイタリア初日で出会ったばかりの方と叔父さんの独断によって運命動かされてんだよ。

何がいけなかったんだろ。
あれかな。もう生まれてきた事事態間違ってたのかな。きっとそうだ。そうに決まってる。



『よし死のう』

「何言ってんの陽呂ちゃん。大丈夫?」

『駄目みたいです。死のう』

「いやいやいや…ちょっと落ち着こう。ね?先ずは車で話しようか。俺の職場の事とか陽呂ちゃんの仕事の内容とか」

『…はぁー…分かりました。沢田さんのご好意ですもんね。悪いのは全てあの楽観至上主義な叔父さんですもんね。すみません沢田さん。ため息なんかついて』

「ん。気にしないで?…さ、乗ってくれる?これが俺の車だから」

「お帰りなさいませ沢田様」

『……………』












沢田さんがあっさりと「俺の車」と言い放ったのは、属に言う。

あの黒光りした、長くて長く中からハリウッドスターが出てくんじゃね?な勢いの…





立派過ぎるリムジンだった。


さっきの「お帰りなさいませ沢田様」は勿論運転手さんの台詞。












…どうやら私は大変な人物に着いてきてしまったらしい。











(貴方の車ってあれですか沢田さん…。…沢田様)

(うん。そうだよ)

(…やはり死のう)

((………面白い娘))




<02‐職場提供‐> Fin.
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