□特別だよ?
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ヴァンフェニーが教えてくれた公園は、今はちょうどお昼時というのもあり人通りが少なかった。しかし、それでも時々すれ違う人は皆が犬を散歩させているため、どれだけこの公園が最適かが伺える。
ガルシャアは先ほどサリューが言った通り首輪をかけられるわけでもリードをつけられるわけでもなくスタスタと共に歩いているだけなため、これじゃあ散歩っぽくはないねとヴァンフェニーは言うがサリューはガルシャアが離れて歩くことをしないから気にならないようだ。

「それに、さっきすれ違った人に褒められちゃったしね。よくしつけがされていて、なついてる良い仔だって!」
「なるほど。そう褒められるのは悪くないものだよね」
「いや、俺は元々人間だ…」

犬として、ペットとして隣で歩くガルシャアは、ちょっとしたすれ違いでも雌犬にかなり気に入られることが多くアプローチのしつこさにげんなりとし始めていた。
人間である時もそうだったが、なかなかにガルシャアはモテるらしい。

「まぁまぁ、今のガルシャアはペットなんだから。そうそうサリュー、近くにドックカフェもあるんだよ。今がお昼時だから犬がたくさんいると思うけど…行ってみる?」
「本当?行く行く!」
「じゃ、早速行こうか」

ヴァンフェニーがサリューの手を優しくすくい、そっとリードする。同じような銀に似た白髪に、種類の違いはあれど美しい顔立ちの2人だ。兄妹に見られるにしろ恋人に見られるにしろ、誰もが見惚れる画となっているのは間違いない。
ガルシャアは、度々こういうところでヴァンフェニーと自分の差を思い知らされた。

『俺は人間であっても…こんな風にサリューとはつりあえないな』

自分の野性的なスタイルを嫌うわけではない。
ただ、こういう時は純粋に負けたと感じてしまうのだ。

『サリューに振り回されっぱなしで…本当に情けないもんだ…』

そう、これが彼とヴァンフェニーの一番の差だ。
元々あまり素直に感情を出せないガルシャアは、何をするにでもサリューに一歩こされることが多かった。
しかしヴァンフェニーは違う。彼は長年の付き合いからサリューの行動や好みを把握し、常に先に先にと動く。そうした結果、誰もが理想とするような恋人同士の画となる。

性格、風習、家系の違いを理解していても、男性であるならば女性より優位に立ちたいという本能に近い感情を押し留めることは出来なかった。

「ガルル…」
「ん?どうしたのガルシャア、お腹空いてきた?」
「ドックカフェの匂いにつられたの?」
「あぁぁぁうるせぇヴァンフェニー!噛み千切るぞ!」
「まぁまぁ、落ち着いて。ドックカフェ着いたから。喋らないようにね」
「クッソ…」

サリューの付き合いを同じくして知り合った仲なので必然とヴァンフェニーとも長い付き合いはあるが、どうにも一言一句が癪に触る。相性以前に、細胞から合わないのではないかとすら考えてしまう。
けれどもこうした正論には歯向かうことも出来ないため、ガルシャアの機嫌は更に悪くなるばかりだ。

「いらっしゃいませー!2名様ですね?あら、大きなワンちゃん。吠えたりしますか?」
「いいえ、大人しいです。噛みつきもしませんよ」
「それなら、そちらの手前の席にどうぞ。今お冷やをお持ちしますので」

席に座り、店内をぐるっと見回すと確かにお昼時というだけの人が犬を傍に座らせて談笑していた。小型犬がほとんどを占めているが、中にはガルシャアよりも大きいと思われる超大型犬まで店内でくつろいでる。

「ね、ガルシャア。何が食べたい?喉は渇いた?」

サリューが身を屈め、ガルシャアにそっと小声で問う。

「いや、別に…。水もこれからくるし…」
「……?うん…」

喋らないように。そうヴァンフェニーに言われて悔しいというのは分かるが、それにも増して元気のないガルシャアにサリューは首を傾げた。
そういえば、途中からやけに静かにしていたことを思い出す。

「……………。」
「お待たせしましたー!お客様、ご注文はお決まりですか?」
「僕にはアールグレイを」
「ぁ、パフェ1つお願いします!」
「かしこまりました!それなら、ワンちゃん用のパフェも一緒にいかがです?」

その言葉に、サリューの目がキラッと光った。
純粋な興味と、ガルシャアを元気にする方法を見つけたのだ。

「ならそれも!」
「はい、少々お待ち下さいませ」

失礼しますと去って行った後、ニコニコと楽しげなサリューに思わずヴァンフェニーも微笑む。

「とても楽しそうだねサリュー」
「まぁね。やっぱり好きなものを食べらる喜びとか犬用パフェの興味もあるけど…さ」
「ふふ、そっか」

「………ガルル」

ほら、まただ。
機嫌の悪さもあってか、そう考えたら自然と唸り声が出てしまう。
ヴァンフェニーには常に余裕がある。長い付き合いだから今はもしかしてと思う時が無いわけではないのだが、長く共にいてもそれだけ余裕の丈の分かりづらさがあれば羨ましいと感じる。

そうして思いふけっていた故か、サリューの声に気付けなかった。

「ガルシャア、ガルシャアってば!」
「ぁ、あぁ。わりぃ…」
「しっ」
「ッ!!!」

思わず喋ってしまったが、たったの一言。運良くも聞いていた人はいないようだ。

「ほらガルシャア、パフェだよ」
「…………。」
「ボクのパフェのこと?もう食べ終わっちゃったからさ」
「…………。」

目の前に置かれたパフェは器を見れば犬用そのものだが、中身だけ見ると子供用かと思うほどに明らかなものがない。

「ガルシャア、食べさせてあげるよ?」
「………。」
「ダメだよ、照れ隠しに顔をしかめたって。尻尾は正直だから」
「ガルル…!!」

どんな顔をすれば良いかも分からずにいると、サリューは店に置いてある犬用のスプーンでパフェを一掬いして前に出す。

「ほら、思ってたより悪くなさそうだよ。ね?」
「…………。」

もう、どうでもいい。どうせサリューに敵わない。
そんな開き直りから、素直にパクッと口にする。味は薄味だし噛みごたえはないが、意外と腹を埋めてくれるものだとパクパク食べながら思う。食べ終わった後は、サリューが彼の頭をギュッと抱き締めてくれた。

「よーしよーし、ガルシャア!大好きだよ」

頭や眉間、鼻にキスをされると、我ながら単純だと思いながらも機嫌の悪さは一気に消える。
俺、やっぱりサリューに敵わなねぇなぁ…。
そんな思いとともに、少しだけ昔のことをも思い出す。

「ふふふ、機嫌は直ったようだねガルシャア。もしかしたら君は犬の方が都合良かったりして」
「ガルルッ」

ふと降りかかるヴァンフェニーの言葉に唸ると、唸らないようにと再び注意されてしまう。

「あははっ、ダメだよヴァンフェニー。せっかくガルシャアの機嫌が直ったんだから。からかわないで?」
「ふふふ、そう?サリューのお願いなら仕方ないかな?」

優雅に長い足を組み直し、静かに紅茶を飲むヴァンフェニー。サリューはそれを見ると、こっそりガルシャアに耳打ちする。

「ガルシャア、これで機嫌直してね?」
「ッ?!!!!」

ちゅっと軽い音をさせて、口にキスをする。尻尾が激しく振られているのが自分でも分かるが、抑えられない。

「分かってるでしょ?昔から、これはガルシャアだけだよ?」
「サリュー……」

少しだけ照れたような顔をされ、ガルシャアは興奮した気持ちを抑えられずに外へ飛び出してしまう。

「あっ……。まったく、ガルシャアは」
「ふふ。でも、これならしばらくは機嫌良いだろうねぇ」
「おや、聞こえてた?」
「分かってるくせに。昔から小悪魔だね」

カップを机に置いて会計をサッと済ますと、サリューの腰を抱いて外に出る。
ちらりとヴァンフェニーを見上げれば、優しく微笑んでいながらも熱を帯びた瞳と目が合う。
これじゃあ普通の女の子なら一発で参るだろうなぁと考えていたら、そっと顎を持ち上げられた。

「君は必ず僕のモノにする。それに、ガルシャアの反応は見ていて楽しいじゃないか」
「ふふふ、紳士なのか性格が悪いのか…」

サリューはヴァンフェニーから離れると、手を引いて小走りする。

「ほら、早くガルシャアを見つけないと!急ごうヴァンフェニー!」
「分かってるよ」


そして、公園で深い穴堀をしているガルシャアをすぐに見つけられたそうな(笑)

【完】
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