□見えてる?
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セカンドステージチルドレンはラグナロクの一件以来、自分の持つ超能力といえるべき能力を手放した。しかし今まで自分の体にあったものをいきなり手放すというのは、思いもよらない事態を招いてしまった。

それが、一時的な身体の衰えである。
個人差はあるのだが階段を上がっただけで激しく息切れをする、重い荷物を持てない、耳が聴こえづらい、目が見えないなど…それぞれ皆にお年寄りと同じ反応が表れており、それは元々持つ能力の強さが関係しているらしい。
記憶力のような身体能力の他は普段通りなので、学業に支障がないことは不幸中の幸いというべきだろうか。

しかも一時的というだけはあり、能力が低かった者ならば1週間程度で回復する。
けれどもサリューはどうだ。
カリスマ性でまとめていたこともあるが、何より能力の強さで皇帝と名乗っていた。現在1ヶ月程経っているが視力がなかなか治らない。
実際フェーダの2番であるフェイも体力が治ってないことや、ギリスの耳が治ってないことも考えると、まだまだ時間がかかるといえよう。

「ねぇガルシャア、ヴァンフェニー。これより強いのは本当に無いの?」
「店の奴が、それだって言うんだからそれが一番強いんだと」
「大丈夫だよサリュー、まだ見てない眼鏡屋はあるから」

一番強いと言われた眼鏡を戻し、店を出る。
今サリューはギリスの市販を改造した眼鏡をかけているのだが、それだと改造しただけはあり頭が重い。それで、視力が回復するまでの間のための眼鏡を現在探しているということだ。

ちなみに重くても見えるのであれば改造眼鏡でも良いのではないか…という疑問はフェーダの仲間ならば誰もが思うのだが、サリューは納得しなかった。
というのも実は、サリューの標準的ではあるのだが若干低い背丈からきている。元々高い方でないことを気にしているサリューにとって、伸びなくなるかもしれないという可能性は少しでも避けたかったのだ。

「次はどこの店?」
「2つ隣の町が品揃え良いって評判だよサリュー」
「なぁ、やっぱりその眼鏡でいいんじゃねぇの?」
「やめてよガルシャア。2人はボクが普通の眼鏡を欲しがる理由を分かっているじゃない」
「…………。」

声にいつもの力強さがない。
やはり、もう能力がない故に視力が戻らないのかという不安が拭えないのであろう。能力を捨てたからには立派な大人になりたいと願うサリューが、背丈が伸びないのも嫌だと思う心境をガルシャアもヴァンフェニーも分かっていた。

「……ねぇ、サリュー。少し休憩しない?ずっと眼鏡を探して動きっぱなしじゃないか」
「え?でも…」
「ちょうど近くに素敵なカフェがあるよ?パフェでも食べたら?サリューは甘いもの、好きでしょ?」

ヴァンフェニーの提案に少し迷いもみせたが、パフェの誘惑には敵わない。サリューは元気良く頷いて近くのカフェに足を運ぶ。
カフェはレトロな雰囲気でまとめてある店だが、ところどころに見る雑貨は最近のもので逆にお互いを引き立てる。

「ふーん、良い雰囲気!パフェ2つ食べようかな?」
「サリュー、食べ過ぎると太るよ?」
「ぅ……」
「俺は少しくらい太った方が良いと思うがな」
「やっぱり今日は2つ食べる」
「ガルシャア、君はサリューをどうしたいの…?」

普段は落ち着いて大人びているが、最近というか天馬と出会ってからは年相応の反応が増えてきている。それを可愛いと思いながら、彼らもサリューに影響されて良い意味で変わってきていることに気付いていない。
サリューはパフェを2つ頼むと、改造眼鏡を外して頭を楽にした。

「そういや…お前、それでどのくらい見えるんだ?」
「え?どのくらいって…」

サリューは両手をガルシャアの頬にあて、顔をグッと近付ける。いきなり顔を近づけられたせいか、彼の顔が赤くなった。

「本当に見えないんだ。こんなに近くにしても、ガルシャアの顔がよく見えない。ボヤけているよ」
「そ、そうか…」
「ねぇ、今どんな顔してる?」
「フフッ、サリュー聞きなよ。ガルシャアは今…」
「噛み千切るぞヴァンフェニー!!」

それにヴァンフェニーは、さらにクスクスと笑いながら口を閉ざす。

「え?!意地悪しないでよ!それとも何?ボクの顔が近くて照れてるの?!」
「…………っ」
「君も嘘がつけないこと忘れるとこだったよ」

サリューも彼の表情が分かると、クスクス笑って両手を離す。少し寂しさを覚えながら、ガルシャアは椅子に座り直した。

「不便だねぇ、サリュー」
「本当。見えないことって不便ばかりだよ」
「ねぇ、この距離でもダメかい…?」

ヴァンフェニーは、先ほどサリューがガルシャアにやったように顔を近付ける。ガルシャアの時よりも近く。

「これくらいならヴァンフェニーの表情が分かるよ。近いね」
「キス出来そうでしょ?」

隣でガルシャアはそれに顔をしかめるが、サリューは気にしないようだ。ふふっと笑いながら彼から離れた。

「本当、ここがお店でなければキスしてほしいものだね」

お待たせしました〜と共に目の前に出されるパフェに目を輝かせながらも、ウェイトレスにどうもと声をかける。

「眼鏡、かけんのか?」

眼鏡を取り出したサリューにガルシャアが疑問を口にした。

「え?かけるよ、見えないもの」
「食事は目から楽しむってやつだよガルシャア。ね?」
「うん、本当は…かけないで食べられれば良いんだけどね…」
「…………。」
「…………。」

サリューは眼鏡をかけ、パフェを一口頬張る。

「うーん、美味しい!!ほら、あーんしてあげるから食べる?」
「あぁ?」
「いいね、一口ちょうだい」
「はーい、ヴァンフェニー」
「あー…」

ぱくり、と素直に食べて美味しいと言うヴァンフェニーに対してガルシャアは顔を赤らめて何も言わないでいる。

「ほら、ガルシャアも照れてないで?あーん」
「お前なぁがふっ…!!」

無理矢理口に入れる形で彼の口にパフェを突っ込んだサリュー。驚いたやら恥ずかしいやらで再び口を閉ざしてしまう。

「ねぇ、この店また来ようよ。ボクの目が治ったら」
「…………?」
「………目が?」
「そ。また3人でデート、いいでしょ?眼鏡越しでなんて嫌だから」

ぱくりとパフェを食べ、器を空にする。

「あーぁ、今日はもう疲れちゃったかもなぁ。眼鏡探し、次の店を見たらまた明日にする」
「あ?良いのかよ見つからなくても?」
「うん。こんなイケメン2人を独り占め出来るなら、眼鏡探しも必至にやらなくていいかな…なんて!」

とりあえず今日も牛乳1本飲みきればいいかな〜…と呟きながらパフェ代を払うサリュー。2人も飲み物代を払って後を追う。

「大好きだよ〜、ヴァンフェニーもガルシャアも。さ、眼鏡を見に行こうよ」
「なんか…あっさり言うな。しかもオマケっぽくないか?」
「まぁまぁガルシャア。僕も君が好きだよサリュー」
「ありがとうヴァンフェニー。ガルシャアは?まぁ、照れ屋な君からは聞けないだろうけど」

クスクス笑いながらヴァンフェニーの後を歩くサリューに、ガルシャアは何を言ったら良いのやらという顔で続く。

「ガルシャア、好きだよ君が」
「何回も言わなくたって分かってるつぅの!!」

【完】
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