□告白しようか
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「え?放課後に用事?」
「うん、ごめんねサル。一緒に新しいケーキ屋さんに行こうって約束してたのに…」
「ぅ、ううん。仕方ないじゃないか。大丈夫、また今度行こう」
「うん」

またね、と走り去って行く天馬にサルは小さな溜め息をつき、帰る支度を終えたフェイに駆け寄る。

「ねぇフェイ!今日遊ばない?天馬とケーキ屋さん行く予定だったのに急に用事がって…」
「ごめんサル。僕も用事があるんだ。また今度誘ってくれるかな?」

一瞬落ち込んだ様子を見せたサルだったが、すぐに苦笑を浮かべた。

「もぅ、今日は運が悪いなぁ。なら今日は新しく買ったゲームでもしてようかな?」
「本当にごめんね。あとさサル、今度……」
「今度?」
「………、いや。なんでもないよ。近々遊ぼうね?」
「え?ぁ、うん…」

首を傾げるサルの横を通り、フェイは教室を出て行く。

「……変なフェイ」

サルはまとめていた荷物を持ち、窓を眺めながら教室を出て階段を降りる。こんなにいいお天気だというのに、遊べないとは悲しいことだ。
その時ふとサルは、校門でフェイと天馬が一緒にどこか行くのが見えた。

「……同じ用事、とか?だったらなんの用事だろう?」
「サル〜、何してるの?一緒に帰りましょう!」
「え?うん、ちょっと待っててメイア」

一瞬離した目をすぐに窓の外へと戻すが、2人はすでに居なかった。

「……サル?どうしたの?」
「ぁ、ううん。ところでメイア、ギリスは?」
「今日は委員会で遅くなるんですって。待ってるって言ったんだけど、悪いから先に帰っててって」
「ふぅん…、そう」
「サルこそ天馬は?フェイは?」

サルは両手を大げさに広げ、2人してどっか行ったよと苦笑した。

「サル抜きで?……なんか可笑しいわねぇ」
「可笑しい?」

メイアは1つ頷くと、サルに背を向ける。窓からの逆光か、なんだか推理ドラマのようなシーンを思い出させた。

「だってそうじゃない。あれだけ貴方にベッタリなフェイがいないのよ?天馬と一緒でしょ?気にならないの?」
「ベッタリって…」

いつも3人は一緒に行動をしているが、天馬は別のクラスなために部活や休み時間、放課後でなければ共にいることはない。
しかし、フェイとサルは同じクラスのために天馬がいない時でもずっと一緒だ。それは、一部の人達から付き合っているかもしれないのではないかと噂されるほどに。
メイアも仲が良く、離れているところを滅多に見ないフェイとサルが付き合うのは時間の問題と思っている1人である。なので、今回のことに疑問を持たずにはいられない。

「ねぇ、今日天馬に聞いてみたら?」
「え?」
「だってフェイに聞いてもきっと答えないわよ!天馬だったら双子なんだし聞きやすいじゃない」
「でも…なぁ…」
「でも、じゃないでしょ?」

はーぁとわざと大きく溜め息をつき、メイアはうつむいているサルの両頬を挟んで目線を合わせさせる。

「フェイのこと、好きでしょう?天馬にはもう恋人がいるから遠慮はいらないのよ?」
「メイアぁ……」

うっすら涙目になり始めたサルに、また大きく溜め息をつく。

「サル、今日うちにいらっしゃい。一緒にお菓子でも作りましょう?」
「メイアぁぁ…」
「サルの好きなお菓子、材料あるから一緒に作りましょう?それともケーキを焼きたい?」
「……お菓子、作りたぃ」
「ふふっ、いい子ねサル」

抱き締めて、頭をよしよしと撫でてやる。
サルの双子は恋に目覚めたら一直線だったが、サルはそうもいかないらしい。双子といえど、こういう違いもあるのかと感じた。

「メイアぁ、ありがとぅ…」

うるうるとした涙目で、メイアに抱きつくサル。
決して甘えん坊ではないサルがここまで素直に甘えられる相手といえば、自分を含めても片手ほどしかいないのを知っていると、どうも可愛くて仕方ない。

「いいのよ。お菓子作って、食べて家に帰ったら、ちゃんと天馬にフェイのこと聞いてね?」
「ぅん。ちゃんと聞く…」
「いい子よ、サル」

最後に額に口付けると、メイアはサルの手を引く。

「さ、早く私の家でお菓子作りましょうサル!」
「……、うん!!」

メイアは手を握り直し、サルがこけない程度の速さで走る。

「ねぇメイア、1つお願いがあるんだけどいいかな?」
「ん?えぇ、サルのお願いなら何でも!」

サルはありがとうと笑い、一旦足を止めると内緒話をするようにメイアの耳元へ口を近付けた。

「あのね、メイア…」
「…………。」



翌朝、いち早く出てしまった天馬を追うように出たサル。
結局、天馬とフェイはたまたま似たような用事だったらしく、それに安心したサルは上機嫌だ。

「メイアに報告、しないとな〜」

スキップするかのような軽やかさでクラスに入ったサル。すると、突然何人かの男子生徒が囲んできた。

「サル、俺と付き合わないか?!」
「へ…?」

囲んできた男子達が、1人の告白をきっかけとして次々に想いをぶつける。サルとしては訳が分からずに困惑するしかない。

「ちょ、ちょっと待ってよ皆。何がどうしたの…?」
「フェイが天馬に告白するところを見たっていう奴がいるんだ。あいつが天馬とくっつくならサルの相手は空くだろう?」
「え?なに、それ……」

だからサル、俺と…と続かれる言葉も聞かず、サルはクラスを飛び出た。
この時間ならまだ天馬もフェイもサッカーの朝練をしてる!とサッカー部の部室に一直線に走っていく。

部室に着くと、ちょうど朝練を終えて着替えの最中だったらしくシャツを中途半端に着ているフェイを見つけた。

「さ、サル…?」

天馬と似て明るく表情豊かだが、少しばかりポーカーフェイスなところがあるためか笑う顔以外はあまり見ない。そんなサルの顔が今にも泣きそうなほど目を潤ませているのを見たフェイは驚きのあまり着替えをするのも忘れている。

「フェイ…、聞いたよ…」
「な、なにを…?」
「天馬に告白、したんだってね…」
「え?!!」

サルはフェイに近づいていき、彼をじっと見つめる。彼は嘘をつくのが下手な性格だ。顔を赤らめているのを見ると間違いないだろう。

「で、でもねサル、それは…」
「ねぇフェイ!ボク、フェイが好きだよ!」
「…………………え?」
「天馬の代わりでいいからさ、ボクと付き合わない?天馬にはもう彼氏いるし、双子だからボクも天馬に見えなくはないでしょ?」
「え?ぇ?ぇ?」

顔を真っ赤にして困惑するフェイだが、今のサルには気にする余裕がない。

「好き、フェイが好きだよ…」
「サル……」

フェイは、自分の返事を不安そうに待つサルにどう言おうか迷っていたようだが、やがて決心をして口を開く。

「聞いてほしいんだ、サル。僕、ずっとサルが好きだった」
「…………?」
「前々から、告白しようって思ってた。けれど勇気がなくて…天馬に協力してもらったんだ」
「協力…?」

フェイはゆっくり頷くと、今度は苦笑をしながら話を続ける。

「天馬がさ、サルだと思って練習していいって言ってくれたからさ…情けないながらに甘えてね。天馬で告白の練習してたんだ」
「……ぁ、そう……そうなんだ…」

サルは一気に緊張感が抜けて、床に座り込んでしまう。フェイはごめんねと言いながら、サルに手を差し出す。

「でもまさか、サルから告白されるなんて思ってみなかったな。サルにはヴァンフェニーもガルシャアもいるから」
「あぁ、あの2人…」

確かに彼らがサルに好意を抱いてるのはサル自身も分かっているし、別に悪い相手ではない。しかし、それよりもサルがフェイに好意を向ける方が早かったためにあまり相手としては意識されてはいない。

「別に、フェイにフラれたら付き合ってあげてもいいかなってとこだよ」
「そうなの?」

サルはそうだよ、と言いながらフェイの手を掴んで立ち上がる。

「もぅ、本当に焦っちゃったよ」
「へへへ…、本当にごめん…」
「いいよ。怒ってないから」

サルは鞄から何か小さな包みを取り出すと、フェイに渡す。

「あげる。後で食べてね?」
「え?ゎ、分かった…」

じゃぁ、先に教室戻っているねと部室を後にするサル。パタンと扉が閉まった時、やっとフェイは思い出した。

……まだ、サッカー部員がこの部屋にいることに。

「フェイ、サルと付き合うことになったんだな?」
「サルに告白する理由で天馬に告白とか…お前マジで羨ましいな」
「ただでさえお前は普段から2人と一緒のくせしてさ…」
「ちょっと得すぎやしねぇか…?」


怖い。
マジで怖い…。

そう思ったフェイは、恐怖から逃れようと意識を手放した…。





「メイア、フェイと付き合うことになったよ!」
「あら、良かったじゃない!おめでとう、サル!」
「ありがとう!ちゃんとフェイに食べてもらいたかったお菓子も渡してこれたし!」
「本当に良かったわね!見た目じゃあ絶対に分からないから、きっとフェイは食べてビックリするわよ!嫌いな人参がたっぷり入った野菜クッキーでもこんなに美味しいんだって!」

私にまた焼いてね、と言うメイアにサルは額を合わせてもちろんと笑った。


ちなみに失神するくらい嫌いだと言いきるフェイがクッキーを何も知らずに食べた時…うっかり意識を失いかけたのは別の話…(笑)

【完】
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