□名前で呼んで
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「おはよう。サル」
「ぁ、おはようフェイ」

ラグナロクの後、超能力を失ったセカンドステージチルドレンのメンバー。
超能力を失うことで寿命が長引き、今では学校に通う普通の子供だ。セカンドステージチルドレンだったために学校に入れば、いじめに遭うのではないか。周りに溶け込めないのではないか。大人達は寝むれぬほどにそんな不安を抱いていたのだが、いざ入れてみるとあっさり溶け込んでしまい、気苦労だったかと肩をすくめたのは1ヶ月くらい前の話だ。


「あーぁ、今日は眠いなぁ。部活、見学しようかなぁ?」
「でも今日、隣町のサッカー部と練習試合やるって監督言ってたよ」
「えぇ〜?まったく、なんてタイミングの悪い…」

いつもの楽しそうな姿はなく、本当に眠たそうだ。フェイはサルの顔を覗き込み、夜更かしでもしてたのと問う。

「え?ぁ、あー…うん、まぁ…ね」
「珍しいね。それで?なんで夜更かししてたの?」

それを待ってましたと言わんばかりに笑みを浮かべたサルは、カバンをポンポンと叩く。

「後のお楽しみ!大丈夫、ガッカリはさせないから!」
「え?うん…、分かった…」

楽しそうに学校の門をくぐるサル。フェイもまた大人しく続くのだが…彼の脳裏には、サルのカバンの中身が気になって仕方なかった。


「サルは…何を持って来たんだろう…」

気になって仕方ないからヒントだけ、と思ったとしても、フェイは長年の付き合いからサルが中身を教える手かがりを言うことはないと分かっている。
実際、聞いたら予想通りの言葉が聞けただけで放課後だ。今日の練習試合の相手が来るまでの間も、そろそろではないかとサルを見ても知らないフリをされた。

……結局、フェイは試合が終わっての帰り道を通っている今でも知れず仕舞いになっている。
ちなみに試合はサルとフェイの2トップでの攻撃によって圧勝。試合が終わる頃には、何人かの目がサルに対してのみ優しげだったことには頭痛を覚えた。


『周りに恋敵は増えるばかり…かぁ…』

頭の中で1人そう呟く。

「流石はサルだよね」
「え?何?いきなりどうしたのフェイ?」
「いいや、なんでもないよ…」

そろそろ別れ道。フェイは大きな溜め息を1つつき、じゃあまた明日と手を上げた時だ。

「はい、フェイ。これ」
「………?」

ポンッと渡されたのは、可愛らしいラッピングを施された袋。

「……マカロン?」
「えへへ〜、やっと上手に出来るようになったから」

袋の中には、ピンクや黄緑や黄色などのパステルカラーで出来た色とりどりのマカロン達。
そういえば天馬の血なのか、料理や裁縫とか家事が得意なんだよなぁと思い出したフェイは、早速袋を開けて1つ頬張る。

「うん、すごく美味しい!流石だね、サル」
「でしょ?」

嬉しそうに笑うサルは、マカロンを1つ取るとフェイに向ける。

「はい、フェイ。あーん」
「サル……?」

フェイが尋ねても、サルはニコニコ笑ったままだ。彼は素直にマカロンを口にする。

「ねぇ、フェイ。もう1つ食べさせてあげようか?」
「………。」

何か言いたげにソワソワしているサルを見ながら、フェイはもしかしてとマカロンを飲み込む。

「うん。じゃあお願いしようかな、サリュー」
「……っ」

サルは驚いたような顔でフェイを見る。大きな瞳はさらに大きくなっていて、そこに映る自分の顔に苦笑してしまった。
サルと向き合っている時の顔は、試合後の連中と何も変わりないなと。しかし、自分は昔からの付き合いで惚れた身だ。互いに良欠点を分かっている。


「な、なんで…それを…?」
「ふふ、超能力が無くたって分かるよ。何年付き合ってると思ってるんだか」
「ぁ、そう…そう、なんだ…」

恥ずかしそうに視線を逸らすサルの顔は、どことなく天馬を思わせる。
ラグナロクが終わり、皇帝から降りたサルは天馬のように明るく、表情も豊かになってきた。惚れた弱みを抜いても可愛いと思える。(恐らくそのせいで敵が増えるのであろうが)

「サル、名前で呼んでほしいんだよね?僕はサルの名前、可愛くていいと思うよ」
「ほんとう…?」
「うん、本当」

それを聞いたサルは、嬉しそうにぴょこぴょこ跳ねてフェイに抱きついてきた。
こんな行動も、天馬に救われてからだ。

「ありがとうフェイ!大好きだよ!」
「どういたしまして。僕もだよ、サリュー」

サルを抱き締めて髪を撫でる。強いクセ毛なのに柔らかく、髪通りも心地よい。少し顔を埋めれば、香りの良い稲穂に包まれた気分だ。

「サリューは本当に天馬の子供だよね」
「え?なんでココで天馬?」

フェイはなんでもないと言って、誤魔化すように額に口付けた。

【完】
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