マリアンとルーシーがにらみ合ってる時、小道の向こうから車の高いエンジン音が響き、門番の制止をつげる甲高い声が聞こえた。

「伏せて!!」クラウドが叫びマリアンの肩を押さえつけた。マリアンは何がなんだかわからないままクラウドの足元にしゃがみこんだ。

いきなり小道の藪からジープが現れた。ジープはばきばきと音高く辺りの低木を轢きつぶすと中から迷彩の服を着て覆面をした男たちが4〜5人出てきた。

「ウータイの寄生虫どもに死を!!!」そのうちの誰かが叫ぶのと、クラウドが会場の大きなテーブルを思いっきり蹴り上げたのはほぼ同時だった。ガシャン!!と派手な音がして、テーブルの上の料理と皿が芝生に飛び散った。会場では悲鳴がひびきわたった。
クラウドは胸のホルスターから拳銃を素早く引き抜くと、最初にアサルトライフルを持って飛び出してきた男の腕を撃った。

「テーブルの影に隠れて!!!」クラウドに言われ、マリアンと従姉妹たちはテーブルの影にしゃがみこんだ。体に震えが走り、歯の根が合わない。

クラウドはテーブルの影に回り込み、一瞬マリアンの安全を確認すると、狙いを定めてもう一人ライフルを持った男の肩を撃ち抜いた。
「あと3人。」クラウドがつぶやいたのが聞こえた。マリアンはクラウドの横顔を見た。普段は優しげな水色の瞳が酷薄な光を帯びたアイスブルーになり、戦闘を楽しんでいるような輝きが垣間見える。

クラウドは素早くテーブルの影から近くの木の影に移動すると、さらに二発続けて撃ち、後から飛び出してきた男の足と肩を撃ち砕いた。

残った二人はジープの扉に隠れ、どこから銃弾がきたのか様子を伺っている。

クラウドは足元に散らばっていた皿の破片をジープめがけて投げた。
男が扉の影から顔を出しそちらに狙いを定めたところを、頭を撃ちぬいた。

「マズイ、一人殺した・・・」クラウドがつぶやいた。

残りの一人がジープを発進させた。ギュルルルという音とともにジープのタイヤが逆回転し、潅木をバキバキへし折りながらバックしだした。
クラウドが立て続けに数発タイヤを撃つと、甲高い金属音をあげてジープが半回転した。クラウドは地面に落ちていた銀製のソースピッチャーを思いっきりジープに投げつけた。ピッチャーはフロントガラスにぶつかると、中身の肉汁がべったりガラスに広がった。
クラウドはその隙にテーブルを跳び越すと車の窓越しに運転していた男の肩を撃った。
ドアを開け、血まみれでうめいている男を座席からひきずりだすと地面に投げ捨て、撃たれてない方の肩を足で押さえつけた。

「レディ・マリアン!!!」クラウドに呼ばれ、マリアンは飛び上がるほど驚き倒れたテーブルの陰から顔を出した。

「お願いがあります、これでターフの綱を切って私にください。縛りますので。」クラウドは腰からダガーナイフを引き抜くと軽く放り投げた。ダガーはテーブルの表面に浅く刺さった。
マリアンは震える手でダガーを引き抜き、近くに垂れているターフの綱を長めに切りクラウドに向かって投げた。

クラウドは手早く男の手を後ろ手に縛り上げると、男は苦痛にうめきながら

「お前、神羅軍のものだろう?なぜここにいる??」とクラウドを見上げてつぶやいた。

「お前に教える必要はない。」

クラウドは残りの綱を胸元から取り出したアーミーナイフで切り
「動くと撃つ。」と静かな声で言った。
他の倒れたメンバーを確認し、残りの綱で手足を縛り上げた。

その後しゃがんで死体を確認すると軽い舌打ちをした。
クラウドは胸から携帯を取り出すと、グッドウィル駐留の軍にことの次第を連絡した。


その間は多分わずか十分くらいだったろう。
パーティー会場は無残な有様になっていた。

クラウドはざくざくとブーツで芝生を踏みしめながらマリアンに近づくと

「お怪我はないでしょうか?」とひざまずき、気遣わしげに顔を覗き込んだ。
「驚かせて申し訳ありません。もうすぐ地元の軍のものが来ます。あとはそちらにお任せします。」

その後声も出ない人々の間を大股で歩くと跳弾を受けて肩に怪我をして青ざめてるマーサに近づいた。
「今止血します。」そういうと傷を確認してからマーサのハンカチを裂いて肩を縛った。
「血管は外れてるようなので大丈夫でしょう。もうすぐ軍医が来ます。気分はいかがですか?」
マーサは弱弱しくうなづいた。
「ええ、大丈夫と思います。ありがとう。」

クラウドは周りを見回し、怪我人をチェックするとマリアンの伯母のところにやってきて、
「血でお庭を汚してしまい、申し訳ありませんでした。」と詫びた。

やっと気をとりなおしたマリアンの伯母はクラウドをそっと抱きしめ、

「あなたのお陰で助かりました。」と言い、クラウドの頬にキスをした。

マリアンは、縛られて唸っている男たちを蒼白な顔でみつめながら声もでない従姉妹を横目に伯母のところに駆けつけた。

「伯母様!!」マリアンが抱きつくと伯母はまだ顔色は悪いものの、しっかりした声で
「あなたの軍人さんのお陰で助かったわ。マリアンもしっかりしてるので見直したわ。」とマリアンの頬にもキスをした。

クラウドはまたどこかに電話をしている。今回は伯母の少し後ろで電話してたので会話が聞こえた。マリアンは聞いてない振りをしながら耳をそばだてた。

「ああ、オレ。イヤな予感が当たったよ。うん、襲撃を受けた・・・こっちは死者はいない。怪我は軽症者が少しいるくらいだ・・・ワルイ、一人殺っちまった。角度が悪くて頭しか撃てなかったんだ・・・オレ??無傷だよ。ウータイのテロリストだけど素人だ。よかったよ。オレ一人だから。大佐に連絡しといて・・・・心配しなくていいよ。じゃあ。」

クラウドはマリアンに気づくとちょっとバツの悪そうな顔をした。
中尉に電話してたに違いない。声が違うからわかる。冷たそうに聞こえるけど、ちょっと違う。声の中に時々なんとも言えない優しさがこもる。マリアンはまた巻き毛の端を思わず噛んでしまった・・・



20分もすると神羅のグッドウィル駐留軍がやってきて、縛られた男たちを連れて行き、死体も片付けていった。

怪我人は軍医が診察して病院に連れて行った。マーサも病院に送られることになった。
マリアンはマーサが心配で救急車両に乗る時まで付き添っていた。マーサは顔色は悪いものの、気分はよくなってきたようで、マリアンの手を握るとそっと抱きしめ静かに言い聞かせた。

「お嬢様についてバーチウッドに戻れないのが残念です。申し訳ありません。ストライフ伍長に送ってもらってください。あの伍長はなかなか良い方のようです。信用できます。でもね、お嬢様、今日もご覧になったとおり、住む世界が違いすぎます。あの方は諦めてくださいまし。」
マリアンは仕方なくうなづいた。

その日は皆部屋にひきこもりがちで、夕食に下りていくものは数人しかいなかった。
マリアンはルーシーが、あの人綺麗だけどすごく怖いと言ったのに腹を立て、食事中も口をきかなかった。

部屋に引き上げてルーシーのことを考えてイライラしたり、マーサの心配をしたりで落ち着かない気分でいると、ドアがノックされた。

もしやと思ってドアを開けると、クラウドが立っていた。

「クラウド!!!今日はありがとう!入って。」とドアのところで言うと首を振り、

「ここで失礼させていただきます。今日は怖い目にあわせてしまいました。大丈夫ですか?私もレディのお陰で助かりました。」といつもとは違った優しい口調で言った。マリアンはクラウドを見上げると、

「また助けてもらったわね。ありがとう・・・明日は早いんでしょう?」と微笑みを浮かべようと努力して言った。微笑みは少しぎこちなくなってしまったようだ。

「ええ、帰りもきちんとお送りします。ともかく無事に送り届けます。」クラウドはそれだけ言うと軽く目礼して自分の部屋に戻って行った。

マリアンはドアを閉めてから涙が止まらなくなった。
自分でも理由はわからないまま、ベッドに突っ伏すと声をたてて泣き出した。



翌日、グッドウィルの駅まで伯母の家の車で送ってもらい、帰りの汽車にクラウドと乗り込んだ。

帰りも貸切の一等車両のコンパートメントだ。
二人きりだとやけに広く感じて、マリアンは落ち着かなかった。
クラウドはやはり斜め向かいに座り、通路側をじっと見ている。
話したいことはたくさんあるんだけど、何をどう話していいかわからない。

仕方なく、「クラウドはどこの出身なの?」と当たり障りのないことを聞いた。

「ニブルヘイムです。寒いところですよ。」クラウドはそう答えたきり黙ったので話が続かなかった。

ずいぶん遠いところだ。冬は雪に閉じ込められる、ということは昔聞いたことがある。確か魔光炉もあるはずだ。

「あの中尉はどこの人?」よそうと思ったのについ聞いてしまった。

「ゴンガガですよ。」クラウドが答えるとマリアンは思わず
「ゴンガガって、南方の?」と聞き返した。

クラウドは答えずにうなずいた。中尉の事を聞かれたくないのかもしれない。

クラウドはそれきり黙りこみ、取り付く島がないのでマリアンは窓の外を眺めることにした。
列車は飛ぶように走り、すでにトンネルも抜けた。クラウドと一緒にいられるのもあと少しだ。
今度はいつ会えるだろうか?もう早々ワガママもきかないだろう。ウータイの事情もやっとわかってきた。
本当に私って何も知らなかったんだ・・・
マーサにも言われたように、もっと新聞を読んだり、色々な人の話をよく聞こう。
マリアンは自分の愚かさが情けなくなり、思わず涙ぐんだ。

気づくと声もたてずに涙を流していた。

クラウドがじっと見つめて困惑したような顔をしている。

「大丈夫ですか?レディにとって色々ショックを受けることばかりでしたね。もっと配慮できればよかったんですが。」
まるで自分が悪いといったような言い方だ。マリアンは首を横に振った。

「違うの。自分がすごくバカだったって思って。」

クラウドはふと笑うとマリアンに優しい目を向けた。

「レディは勇敢で行動力があります。元気で明るい女性は素晴らしいと思いますよ。これから色々考えればいいじゃないですか。」

マリアンはクラウドから初めて微笑みを向けられ、気の抜けたようになって、クラウドをじっと見つめた。

「クラウド、また会えるかしら?」前にも聞いたことがある質問をまたしてしまった。内心少し後悔した。

「オレはもうすぐ前線に出ます。多分ウータイ東北戦線です。生きてればお会いする機会はあるかもしれません。」
そうだ、軍人ということはそういう事なのだ・・・

「あの中尉と一緒なんでしょう?」聞くまいと思ったのに止まらなかった。
「あの人は恋人なの?」聞いてしまった・・・

クラウドは嫌がりもせず、しばらく考えていたが、ゆっくり言葉を切るように話し出した。

「恋人・・というのは少し違う気がします・・・ソウルメイトって言葉をご存知ですか?魂の片割れです。オレにとってはザックスは魂の半分なんです。生きるのも死ぬのも一緒です。」思いがけず、クラウドから真剣な言葉を聞いて、マリアンは胸のつまるような気持ちがした。

「私、クラウドの無事をずっと祈ってるわ。中尉のためにもちょっぴり祈ってあげる・・・」マリアンは顔を上げるとふわりと微笑んだ。

「私のお祈りは効くのよ。」

クラウドはマリアンに笑いかけた。それは温かく優しく、マリアンが想像していた笑い顔よりはるかに素晴らしいものだった。天使ってきっとこういう風に笑うに違いない。

「ありがとう、マリアン。」

初めてクラウドに名前を呼ばれ、マリアンはまた涙がこみあげてきた。

「クラウド、最後に一つ私のお願いを聞いてくれる?」
マリアンが言うとクラウドはうなずいた。

「オレにできることなら。」

「キスして。」

マリアンが言うと、クラウドは両手で頬をはさみ、そっと唇を近づけてきた。
温かく思いのほか柔らかい唇はマリアンの唇の縁をそっと撫でるように近づくと、ためらうように重なった。
マリアンが思い切ってそっと舌でクラウドの唇を割って侵入しようとすると、舌が押し返してきた。

唇を離すと、
「それはダメですよ・・」クラウドが目を細めてちいさく笑った。その笑いは妖艶で、ああ、これはこの前中尉に見せてた笑みだ、とマリアンは思った。

「今度会った時にとっておくわ。」マリアンが言うと、

「オレも生き延びるよう努力します。」と真面目な顔で答えた。



列車はバーチウッド駅に到着した。

駅前は相変わらず人が一杯だった。
ケンドリック家の車がクラクションを鳴らした。マリアンが振り向くと車から父親がでてきて、マリアンに向かって両手を広げた。

「パパ!!!」マリアンは走って父親の腕に飛び込んだ。

「ストライフ伍長、君には二回も娘を助けもらった。なんとお礼を言っていいかわからない・・ありがとう。」
ケンドリック氏はクラウドに手を差し出した。
クラウドは握手を返すと、
「無事にお連れできて私も嬉しいです。」と握手を返した。

荷物を車に載せると、ケンドリック氏はマリアンを促した。

マリアンは父親に続いて車に乗ろうとしたが、突然振り返るとクラウドに走りより、思いっきり抱きついた。
クラウドの温かくて引き締まった体つきを覚えておこうとするように。クラウドの体は甘い枯草のような匂いがする。
その匂いを大きく吸い込んだ。

「本当にありがとう・・約束通り、毎日無事を祈ってる・・」そう言うとそのまま踵を返し、素早く車に乗り込んだ。
車はすぐに発進した。

マリアンは窓越しにクラウドが軽い足取りで雑踏の中に消えていくのをじっと見ていた。

「今度」があるかはわからない。
でも生きてればまたいつかきっと会える。

ウータイの空は高く青く、秋もふかまってきた。



         完(2008/9/28)


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