拍手お礼SS
《空〜Sky〜》




ある日、とんでもなく晴れた空を見てたら、もしかしたら箒なんて無くても飛べるんじゃないかって思った。


「や、ムリだろ」
「どうしてだよ」


俺の意見を真っ向から否定するジェームズ。


「世界に重力がある限りムリ」
「でもさぁ、なんか飛べそうじゃね?」


俺が空を見上げるのにつられたように、ジェームズも空を見上げた。


雲ひとつない真っ青な空。
両手を広げてダイブしたらスイスイと飛べそうな気になってくる。


「飛べそうな感じするだろ?」
「んーん、まったく」
「なんでだよ! わっかんねー奴だな!」
「僕に言わせれば、箒でも飛べない奴が何言ってんだって感じなんだけど」


ジェームズがニッコリと無邪気な笑顔で言う。
コイツのこの笑顔はヤバい。
俺はジェームズを刺激しないよう、声をなるべく穏やかにする。


「本当に飛べそうなんだよ」
「じゃあ飛んでみたら?」


返す言葉を失う俺。
そう、いくら飛べそうな感じがしても、地球には重力があって、魔法界にもその常識は当たり前のようにある。
飛んだが最後、重力に従って落下するのは目に見えている。


「キミが死にたいと言うなら僕は止めないよ。先生には不慮の事故だと言っておく。だから、思う存分飛ぶがいいよ」
「止めろよ、そこは。ってか、押すな!」


俺を窓際へと押しやる手を払う。


「だから言ってるじゃないか。変なプライドは捨てて箒に乗る練習をしろって」
「それはだな…」


俺は箒で飛べない。それは一年生の授業で明らかになった事実だ。
俺以外の奴らがスイスイ飛ぶのを一人地上で眺めたのがトラウマとなり、箒に乗る練習も投げた。


「ピーターでさえも飛べるんだからさ」
「お前それはピーターに対して失礼だろ」
「そっか、ピーターごめん。で、どうなんだい?」


この場にいないピーターに謝罪の言葉を述べ、すぐさま聞いてくる。
明らかにピーターに対しての謝罪の気持ちは感じられない。


「いや、いい。箒はごめんだ」


実は隠れて一人で練習をしていた時期もある。
しかし一人でやったって分かる筈もなく、結局はやめた。


「僕が言うのもなんだけどさ、空を飛ぶのって気持ちいいことばっかじゃないよ」
「は?」


いつも楽しそうに飛んでる奴が何を言うんだと睨むと、ジェームズは困ったように笑った。


「たまに箒が言うことを聞かない時があって、自分勝手に飛び回るんだよ」
「そうなのか?」
「そん時はもう箒から手を離したいくらい気持ち悪いんだよ。内臓がぐるんぐるんってかき回される感じ」


想像してみて気持ち悪くなった。


「乗った後は地に足がつかない感じになって足元がフワフワするし、たまに吐いたりもするし」
「………」


そういえばジェームズはよくクィディッチの試合の後は体調を崩すなぁ、と今更気がつく。


「僕は空を飛ぶのは好きだけど、箒以外に手段がないかなぁっていつも思うよ」
「…そうなのか」


クィディッチ選手の隠れた苦労ってやつか…。
飛ぶのってそんなに大変なんだな。
確かに箒以外に何か手段があれば…。


「…あっ!!」
「なんだよ、急に」
「それだ!!」
「どれ?」
「作ればいいんだよ!」
「何を」
「手段を!」
「はぁ?」


首を傾げるジェームズを横目に、俺は真っ青な空を見上げた。


「よーっし! 俺は飛ぶぞー!!」


熱く叫ぶ俺の頭にジェームズの手刀が炸裂した。
あまりの痛さにうずくまると、ジェームズはそのまま立ち去っていった。


「見てろよジェームズ、お前をあっと言わせてやるぜ!」


痛む後頭部をおさえながら、俺は胸に誓うのだった。









End


シリウスが空飛ぶバイクを作るキッカケを書いた小説はいくつかあるんですが、未だにどれかベストな形なのか模索しています。
このSSもまだベストかどうか分かりません。これからも日々模索します。


鶴の一声ならぬ、神の一声をば!



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