仙人掌

□水を降り注いで 愛を降り注いで02
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藪から出てきたその人は黒いマントのようなもの(外套っていうのかな)を頭からすっぽりと羽織っていて顔はよく分からない。
しかし蜂蜜色の髪が黒い外套からこぼれていて、雪が太陽の光を反射したものがその蜂蜜色の髪の毛に当たってきらきらと輝いていた。

なんとなく、女の人かな、と思った。
それは柔らかそうな髪質から判断したもので、けして確証はないけれども。



だから、その人の口から男特有の低い声が聞こえてきた時に、あたしはがっかりしてしまった。


「何者ですか、こんなところで。」

ご丁寧に喉元に刃物を押し付けて。


ここであたしが、怪しいものではありません、なんて言ったら余計に怪しいやつなわけで。
かといってこの状況であたしが搾り出せる言葉といったら一つしかなかったのだ。



「…怪しいものじゃ、ありません…」



あたしがそう言うと余計に刃物を押し付ける力が強くなる。


「ちょ、痛い、痛いです!」

「何者ですか?」


あたしの言葉は無視して同じ言葉をもう一度。


「だから、怪しいものじゃないんですって!ただの女子高生なんです!」


「じょし、こうせい?」


まるで、その単語を知らないとでもいうように発音する。

どういうこと…?



「もしかして…」

ぼそり、と彼が呟いた。


そしてあたしの腕を引っ張って言う。


「ついてきてください。」


勝手に自分の中で話を終わらせないでほしい。
あたしにはこの状況が何が何だかわからないというのに。


少しの仕返しの意をこめてあたしは彼に言う。
まあ、本当のことなのだけど。


「ついていこうにも体に力が入らないので立てないんです。」


言外に、自分に刃物を向けた人にはついていきません。と感じさせて。



すると、彼は深いため息をひとつ吐いてあたしの横に跪いた。

そして、あたしが声を上げる暇もなく、あたしの体を持ち上げた。


お姫様だっこのような、どきりとする展開ではない。
あろうことか、彼はあたしを肩に担いだのだから。ちょ、あたしは米俵か何かか!


「ちょ、何するんですかこの変態!」

あたしが暴言を吐くと彼も負けずに応戦してくる。


「雪の中そんな格好で寝ころんでいた痴女には言われたくないですね。」


「ちっ、ちじょ…!」


あまりの言葉にあたしは口をぱくぱくさせた。
ち、痴女だなんて…!


「それともなんですか、この雪の中のたれ死んでいきたいんですか?」

「…ちがうけど。」

「じゃあ少し大人しくしてもらえますか。」


彼の言っていることは正論で、あたしはそれに大人しく従うしかなかった。


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