溜め息浸けば

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おじいちゃんとおばあちゃんに了承してもらった後、あたしは一人与えてもらった部屋で考え事をしていた。


向こうの世界で出来なかったことなんてごまんとある。

何から実行していこう、なんてすぐには決めれない。


とにかく、助けてもらった忍さんに恩返しがしたい。それが今一番やりたいことだった。


こんなに何から何までしてもらっていいんだろうか、と何度考えたことだろう。
彼の心の広さには、何ものも敵わない。


紙の上で見てきたが、それ以上に出来た男だった。


優しくて、しっかりしていて、顔もこの上なく整っていて、家柄も良い。
天は二物を与えないと言うが、三物も四物も与えられている。


これから彼が出会うであろう彼女にも思いを巡らせるとそれはもう陰鬱とした気持ちになってきた。
いいなあ、紅緒さん…


他人を羨むなんて、みっともないことだと分かっていても醜い気持ちが溢れだす。


弱気になるな。
頑張れ。頑張れ。
泣くなあたし。


気を張れば張るほど、心はどしゃ降りになっていく。
目に溜まった涙は決壊寸前だ。



「っふ、ふうぅ、っ、うっ、あ、」

ぐすぐすと鼻を鳴らしながら嗚咽する。
もう駄目だ。
泣いてしまおう。


そう思い、泣くために思い切り息を吸い込んだ。




コンコン、とドアをノックする音。

え、と思う暇もなく、

「すいません、少しいいですか。」


と入ってきたその人は忍さん。



あ、しまった。
泣いているのを見られては。

思ったものの、やはり遅かったらしく、苦笑しながらこちらに歩いてくる。


「また何か悲しいことがあったんですか、泣き虫さん?」



end

少尉がパパだったら絶対パパっ子になるよね

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